交通安全コラム

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第211回 地上最高速の争い(45)―スタンレー兄弟の蒸気自動車(4)―

前回は、兄弟が支援した同僚の蒸気車の活躍と兄弟の革新的な蒸気車の誕生を紹介した。
今回は、ロケットと命名される新しい蒸気車の詳細を紹介する。

◆3分以内なら100馬力!
スタンレーレーサーの蒸気エンジンは、2気筒であったが、ボアとストロークが拡大され、ボイラーも強化された。蒸気が火室をコイル状の管で通過することにより、摂氏約370度に超過熱され、蒸気圧は、ウォグル・バグの約55気圧から、約70気圧に高められた。その定格出力は50馬力だが、3分以内なら倍以上の出力を発揮できた、と言われていた。

◆後輪に荷重を集中
エンジンは、軽量に作られたフレームに支えられて後車軸の上に置かれ、多数の肉抜き穴を空けたフライホイールが歯車となって、差動装置経由で後車軸を1.75倍に増速して駆動した(図1)。その結果、1マイルを走行するのに、エンジンは、わずか350回転しかしなかった。

図1 スタンレー・ロケットの蒸気エンジン

直下にバーナーを配したボイラーは、ドライバーの背後に置かれた。このように、重量のある装置をすべてドライバーより後部に配置することで、後輪に加わる重量を増やして駆動輪が空転するのを防ぐ配慮がなされた(図2)。

図2 スタンレー・ロケットの外観図

◆軽量・小型設計
車体は、軽量木製構造で背は低く、幅は狭く、前後端がテーパーしたカヌーを裏返したような形状で、床は完全な平面である。3.5インチ幅の自転車タイプのタイヤがはめ込まれた34インチ径のスポークホイールを支持する前後の車軸は直接車体に固定されている。車輪以外で外部に露出するものは、ドライバーの頭とその後ろに傾斜した太い排気筒のみで、空気抵抗の基準になる前面投影面積は、わずか9平方フィート(0.84平方メートル)である。そのために、ドライバーは、床に足を投げ出して座り、丸ハンドルではなく、古いクルマのような、幅を必要としない一本棒の舵柄で操縦する。“ロケット” と命名されたこのクルマは、車体を真紅に塗装され、総重量はわずか760キロほどで仕上げられていた(図3)。

図3 スタンレー・ロケットとドライバーとなるフレッド・マリオット 

◆夫人の反対
このロケットのドライバーには、ロスかフランシス・スタンレーが予定されていた。しかし、昨年、イベントで目覚ましい成果を挙げて自動車産業の進歩を実証した証しとなるトーマス・デュワー杯が、ドライバーのロスにではなく、製作者であるスタンレーに与えられたことに不満があったロスは、ドライバーになることを断った。その上、フランシス・スタンレーは、ドライバーとなって速度記録挑戦の危険を冒すことを夫人に反対されてしまった。

今回は、兄弟が支援した同僚の蒸気車の活躍と兄弟の革新的な蒸気車の誕生を紹介した。
次回は、ロケットと命名される新しい蒸気車の詳細と記録挑戦のドライバーを紹介する。

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