交通安全コラム

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第215回 地上最高速の争い(49)―スタンレー兄弟の蒸気自動車(8)―

前回は、悲劇に終わった1907年のスタンレーチームの挑戦と事故の顛末を紹介した。
今回は、マリオットの事故の回顧の続きと負傷、新ロケット号の評価を紹介する。

◆頭が水の中
マリオットの事故の回顧は続く。「ボイラー圧を1300ポンド(約90気圧)に保ち、出力は恐るべきものだった。二つ目の窪みに達した時は、縁石に衝突したようだった。クルマは凧のようにおよそ空中を100フィート(約30メートル)飛んで、着地して二つに分解した。ボイラーは浜を1000フィート(約305メートル)転がって行ったが、エンジンと後半部は浜に突き刺さった。私は、依然として、前半部の中に居た。北に向かって走っていたが、ボデーは海の方角の東に飛んで行って止った。私の頭は水の中だった。」

◆飛び出した眼球
動転したオフィシャルは、我に返ってドライバーを助けるために駆け付けた。マリオットは、奇跡的に生きていたが、意識はなかった。多数の打撲で、肋骨、顎、胸骨を骨折し、頭皮は傷口が開き、右の眼球が飛び出していた。幸運にも、たまたま医師が居合わせて、その場で目を元に戻すことができ、約半世紀後の彼の死まで、右目は正常に機能した。比較的短期間の入院でマリオットは完全に回復した(図1)。

図1 晩年のフレッド・マリオット(右側の人物)

◆20年後1000馬力
時速190マイルの記録が達成されるのは、その後約20年待たなければならず、しかもエンジンの出力は1000馬力が必要だった。これを考えると、スタンレーの新ロケット号がいかに素晴らしい能力を持っていたか、驚くと同時に、その不成功が惜しまれる。しかし、もしコースがなめらかだったら、新ロケットは、時速190マイル以上の走行を成功させていたかもしれない、という考えには疑問がある。

◆レイアウトの弱点
スタンレーレーサーの、車軸をバネで支持せずに車体に固定した構造で、駆動車輪の空転を防ぐため後輪に重量を集中させたレイアウトでは、わずかな凹凸で前部が浮き上がり易くなっていた(図2)。一度浮き上がると、底面が平らな車体形状は、翼型のように働いて、軽量な車体全体を空中に浮き上がらせる。この弱点は、速度の増加とともに顕著になる。
空気力は、速度の2乗で増加するので、前年の時速120マイルレベルとその翌年の時速180マイルレベルでは、速度の増加は1.5倍でも、空気力は2.25倍になる。報告者は、事故は起こるべくして起こったものと考えている。

図2 新ロケット号の外観と事故の残骸  

今回は、マリオットの事故の回顧の続きと負傷、クルマのレイアウトの弱点を紹介した。
次回は、蒸気車の衰退とその後のスタンレー社の蒸気車での奮闘を見ていく。

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