交通安全コラム

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第242回 地上最高速の争い(76)―三つ巴の争い(4)―

前回は、対決の経過に続いてドラージュ社と二人のドライバーの経歴と車両を紹介した。
今回は、二人のドライバー、トーマとエルドレッジの鍔迫り合いをお伝えする。

◆“メフィストフェレス”
エルドレッジの挑戦車は、エンジンが壊れて物置に放置されていた20年前のフィアットのスプリントモデル“メフィストフェレス”を大改造して、イタリア戦闘機の6気筒21714ccで300馬力のエンジンを搭載したものである(図)。このエンジンは、1気筒当たり4バルブで4個のスパークプラグを備えていたが、気化器は2個だった。さすがに車量は2トンになったが、駆動には時代遅れのチエンが使われていた。

図1

◆即座に記録公認
安定した走行のドラージュ車のトーマは、ギネスより速いフライング1キロで時速143.26マイル、1マイルで143.312マイルを記録した。これらの速度は、お膝元のパリの国際機構の承認のもとに正式な計測がなされていたので、このフランス人の記録には、即座に公認が与えられた。このフランス人の記録が英国人によって奪われてしまうのかどうか、観衆は固唾をのんで見守った。

◆酸素を供給
エルドレッジがここで記録に挑戦した時、性能向上のための試みとして、エンジンへの酸素供給装置を使用したと伝えられている。その効果があったかどうかは疑わしいが、メフィストフェレスは、フライング1キロで時速146.8マイルを記録した。フランス人が樹立したばかりの記録は、かくして、ほとんど即座に、英国人によって奪い取られたかにみえた。

◆規則違反
ところが、打ち負かされたトーマは、エルドレッジのフィアットには国際ルールで要求されているリバース(後退)ギヤがついていないことを発見し、それを理由に抗議書を提出した。国際機構は、このレギュレーション違反を確認し、エルドレッジの記録の公認を取り消して、トーマの速度、時速143.312マイルを、エルドレッジよりは遅いが、改めて公認世界記録とする裁定をした。

◆48時間のハードワーク
エルドレッジは、新しい公認記録よりも速く走った実績に自信を深め、レギュレーションの要求する後退機構を組み付けて、再挑戦する決意をした。この困難な技術課題を解決するため、“メフィストフェレス”をパリに送り、48時間にわたるハードワークの末リバースギヤが取り付けられた。記録をトーマから取り戻すため、クルマは、ふたたび、アルパジョンに送り返された。

今回は、トーマとエルドレッジの鍔迫り合いをお伝えした。
次回からは、ふたたび競争心を掻き立てられたキャンベルの奮闘をみていきたい。

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