交通安全コラム
第246回 地上最高速の争い(80)―大物新人の登場(1)―
- Date:
- 2021/12/01
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、キャンベルの再度の挑戦と宿願成就の模様と、彼の記録防衛の戦略を紹介した。
今回からは、キャンベルによる記録の更新と大物新人の登場と活躍を紹介する。
◆27L 400馬力航空エンジン
三つ巴の戦いから脱落した英国人設計技術者のパリー・トーマスも、排気量27059ccで400馬力の巨大な航空エンジンを搭載した、ズボルウスキ伯爵設計の“ハイアム-スペシアル”号を買い取って、完全な再設計を行っていた。
さらに、サンビーム社は、自社のドライバーによる世界記録獲得のため、キャンベルのブルーバードを開発したルイス・ハーブ・コータレンに、新しいマシーンを設計させていた。
◆目標は時速150マイル
キャンベルは、彼の350馬力V12気筒サンビームがほぼ限界に達していることはわかっており、ライバルの挑戦を迎え撃つため、すでに新しいマシーンを計画していた。しかし、この“ネーピア-キャンベル”号の完成には、時間が必要だった。
そこで、キャンベルは、既存のブルーバードに、時速をわずか0.15マイル高めるだけの時速150マイルの新記録樹立の可能性を賭け、ライバルが行動する前に、既存のブルーバードで速やかに最後の挑戦を行うことにした。
◆ペンダインで目標達成
キャンベルが信頼するメカニックのレオ・ビラが、出力を限界まで絞り出すチューンアップを施したブルーバードがペンダインに運ばれた(図1)。
1925年7月21日、今回はウインドスクリーンを付けなかったので、計測区間を走行中、風が激しくキャンベルの顔を叩き、彼は、速度で心が異常なほど高揚する興奮を味わった。晴天で、砂はほどほどに固く、狙い通り、彼は、フライング1キロを14.38秒の時速150.869マイル、1マイルで150.766マイルの平均速度を樹立した(図2)。
◆次の目標時速180マイル
キャンベルの走行は正しく計時されており、フライング1キロを新しい記録として2度目の公認を獲得した。ついに、彼は時速150マイルを超える初めてのドライバーとなるという野望を達成した。
彼が視野に入れた次の目標は時速180マイルである。彼を1分で3マイル以上を走る最初の人とするために、ネーピア-キャンベルの設計に拍車がかかった。
今回は、ライバルの挑戦前に、キャンベルの既存ブルーバードによる記録更新を紹介した。
次回は、サンビーム社の新しいレース車の内容と、そのドライバーとなる新人を紹介する。