交通安全コラム
第250回 地上最高速の争い(84)―二日連続の世界記録(1)―
- Date:
- 2022/02/01
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、シーグレイブが4Lサンビームの弱点をカバーしての新記録達成をお伝えした。
今回は、ライバル、トーマスのシーグレイブ打倒の熱意での新記録の達成をお伝えする。
◆キャンベルの自信
シーグレイブの二人のライバル、キャンベルとトーマスの反応は同じだった。どちらもシーグレイブを打ち負かす自信を持っていた。キャンベルは、新しいネーピア-キャンベルが完成すれば、時速180マイルまで記録を伸ばせると信じていた。彼は、27L航空エンジンのモンスター“バブズ(Babs)”号の新装のために、冬の間中熱心に働いていたライバルのトーマスも軽んじていた。
◆トーマスの確信
一方、トーマスは、シーグレイブの記録の上昇幅が小さかったので、彼の大改装しているクルマならもっと速い筈だとの確信を深めていた。彼は、レースで事故死したズボルウスキ伯爵の遺族から買い取ったモンスター、“ハイアム・スペシャル”の大出力でも満足せず、4個のゼニス気化器と、自分で設計したピストンを組み込んで出力をさらに増加させ、車体の流線型化のため長いテールを付け、ボンネットの上に空気取り入れ口を設けた(図)。
◆“トーマス・スペシャル”
バブズという愛称はこの時に付けられた。しかし、正式には“トーマス・スペシャル”である。俗説では、巨大なエンジンにメカニックがふざけて、チョークで“Baby”と書いたのを、トーマスが面白がってそれを使うようになった、といわれているが、最近では、友人か親類の子供の名前から名づけられたのではないか、と考えられている。
◆挑戦の先頭へ
トーマスは、キャンベルが自らの記録を更新して間もない1925年10月に、それほど改修していない状態のバブズで記録を奪おうとペンダインで挑戦した。しかし濡れて柔らかい砂が最高速に達することを妨げた。今や、冬の間中猛烈に働いて、多くの新しいアイデアを組み込んだので、バブズが大幅に速く走ることを確信し、トーマスは、シーグレイブに挑戦する二人のライバルの先頭に立った。
◆エンジン不調でも世界記録
1926年4月27日火曜日、バブズが踏み板からペンダインの柔らかい砂の上に降ろされ、トーマスは、燃料タンクの供給圧を維持するため片手でポンプを押しながら、コースのスタートマークを目指してクルマを移動させた。最初の走行では、多量の黒煙を吐き、エンジンはコース終端のマークを過ぎても正常に点火していなかった。それでも6回走行し、最速の平均はフライング1マイルで時速168.074マイル、1キロでは169.30マイルの世界新記録だった。
今回は、トーマスのシーグレイブ打倒の熱意での新記録の達成をお伝えした。
次回は、トーマスのさらなる新記録への執念の挑戦の経緯をお伝えする。