交通安全コラム
第253回 地上最高速の争い(87)―再び三つ巴の争い(2)―
- Date:
- 2022/03/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、シーグレイブの200マイル達成前に新記録を狙うキャンベルの苦闘をお伝えした。
今回は、キャンベルの不屈の努力による目的達成の経過とトーマスの動向を報告する。
◆二度目の挫折
1927年1月中旬、キャンベルは再びペンダインに行ったが、砂浜が豪雨で含んだ水によって、クルマが最高速に達するのを妨げられ、ひどいスキッドも起こした。それでも、彼は、トーマスの記録からそう遅くない速度を記録した。しかし、小潮の時期のため潮が大きく引かないので、砂浜は乾かず、それ以上の試みを見送らざるを得なかった。しかし、二度に亘る、トーマスに先を越されまいとする挑戦の挫折は、またもや、キャンベルに、再挑戦の決意をさらに強めさせることになった。
◆敵対する砂浜
長期に亘り荒れた天候が続いたにもかかわらず、1927年1月の末、キャンベルはペンダインに戻った。当然、砂浜の状態は彼に敵対し続けた。しかし、彼は、障害が何であろうと目標を達成する決意で挑戦を続け、鋭い貝殻が後輪タイヤを引き裂いても不屈の走行を続けた。或る時、彼は、水を引かせるために、砂浜に溝を付けるアイデアを思いついた。その効果で、記録が彼の手の届くところまで近づいたと思ったまさにその時、砂浜を均す作業車を避けるために、不本意にも、コースを外すことを余儀なくされるという不運に遭遇した。
◆新記録達成
1927年2月4日、キャンベルは、1キロの一方向で、時速180キロをわずかに下回る時速179.158マイルを記録した。逆走行では、クルマが突起に乗り上げたため、彼は跳ね上げられ、ゴッグルが風でむしり取られた。彼は、眼に入る水と砂を拭き取るため、ハンドルから片手を離さねばならならず、減速せざるを得なかった。それにもかかわらず、フライング1マイルの双方向の平均は時速174.223マイル、1キロでは174.883マイルの速度だった。時速180マイルは超えられなかったが、トーマスを上回る世界記録の達成である(図1)(図2)。


◆トーマスの挑戦
トーマスは、紳士的にキャンベルにお祝いの言葉こそ送ったものの、内心、ライバルの成功を悔しく思った。しかし、彼が本当に心配したのはシーグレイブだった。トーマスは、新しいサンビームを米国のデイトナ海岸に持って行くシーグレイブの準備が、かなり進んでいるのを知っていた。彼は、シーグレイブが200マイルサンビームで、全く手が届かない記録を作る前に、バブズで新記録に挑戦をする決心をした。
今回は、キャンベルの不屈の努力による目的達成の経過とトーマスの動向を報告した。
次回は、様々なトラブルに阻まれた、トーマスの記録挑戦の経過をお伝えする。