交通安全コラム
第254回 地上最高速の争い(88)―再び三つ巴の争い(3)―
- Date:
- 2022/04/01
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、キャンベルの不屈の努力による目的達成の経過とトーマスの動向を報告した。
今回は、様々なトラブルに阻まれた、トーマスの記録挑戦の経過をお伝えする。
◆バブズの改修
トーマスは、バブズをさらに速くするための改修で頑張った。ラジエーターの傾斜をさらに強め、エンジンの吸気系を改良し、排気管をボンネット表面で切断し、尾部を流線型化して車体輪郭を滑らかにし、ワイヤーホイールの両面を円盤で覆った。アルミのチエンカバーを新設し、それさえも流線型化し、ボンネットの側面に “バブズ”と愛称を書いた(図1)。
◆駆動チエンの危険
バブズにもシーグレイブの200マイルサンビームにも、初期のグランプリカーと同様の、露出したチエン駆動機構が使われていた。トーマスは、シーグレイブに、サンビームのチエン機構は危険であり、チエンが切れればドライバーを殺すかもしれない、と警告した。しかし、自身のバブズのチエンは、まったく安全だと考えていた。
◆インフルエンザ
トーマスは、1927年3月上旬ペンダインに着いた時、普段の彼ではなかった。彼は、重症のインフルエンザを患い、当初の2月中旬のペンダイン行きを延期したにもかかわらず、その前の週末もベッドで過ごしており、依然として完全には回復していなかった。ペンダインで会った人は、彼がいつもより神経質になっていることに気付いた。
◆不完全な体調
インフルエンザのため延期はしたものの、1927年3月初めにペンダインに着いたトーマスの体調は、依然として完全ではなかった。雨のため記録挑戦はさらに遅れたが、その間もベッドで過ごし、夜には追加の毛布が必要になる程だった。彼は精神的にもまいっていた。
◆計時装置の不調
3月3日の木曜日に走行を開始した(図2)。しかし、彼の走行はいつもの確実性に欠けるように見えた。記録に挑戦しようとするとバブズ号のエンジンはトラブルを起こした。気化器を調整しても黒煙を吐きだすのを見て、トーマスは苛立ち、極めて不機嫌だった。やっと直って高速が出せるようになったが、今度は計時装置が正常に働かなかった。
◆高速での転覆
トーマスは、高速走行の5回目で自信をつけ、キャンベルの記録を破る手応を感じるまでになった。しかし、次の走行で、観衆は、バブズが突然スキッドして転覆し、仰向けに着地して火に包まれるのを目撃した。脱出したようには見えなかったので、人々がトーマスを助けようと現場に駆け付けた時、エンジンから煙が噴出していた。
今回は、様々なトラブルに阻まれた、トーマスの記録挑戦の経過をお伝えした。
次回は、トーマスの挑戦の顛末と時速200マイルを狙うシーグレイブの提案をお伝えする。