交通安全コラム

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第260回 地上最高速の争い(94)―英米のバトルの幕開け(1)―

前回は、シーグレイブの時速200マイル突破の意義、その技術的配慮を解説した。
今回は、栄冠を取り返すための、マルコム・キャンベルの新ブルーバードを紹介する。

◆新ブルーバード
英国から記録を奪い取って屈辱を晴らそうと、熱意に燃えるアメリカ人ドライバーに加えて、同郷人に記録を奪われたキャンベルもそれを奪回する決意を新たにした。しかし、シーグレイブの時速200マイルを超える記録は、キャンベルの時速190マイルが限界であるブルーバードでは、全く手が届かないものであった。そこで、彼は、強力なエンジンを搭載し、一層の流線型化を進める、新しいブルーバードの開発を決心した。

◆強力なエンジン
キャンベルにとって幸運だったことは、より強力なエンジンが入手できたことだった。ネーピア社が、シュナイダー・トロフィー・エアーレースで戦う英国の水上機(図1)のために、国家の名誉をかけて、900馬力の“スプリント・ライオン”エンジンを完成したところだった。これは機密扱いになってはいたが、英国の威信を新たにするという目的から、航空大臣はその使用を特別に許可した。

図1

◆革新的な外観
 新しいブルーバード “ネーピア-キャンベル”の外観は革新的である(図2)。前端は半球形で、テーパーして尖った後部には、前回の走行での蛇行の経験から、航空機のような大型の尾翼が付けられた。競技用航空機のようにスライドするパネルで乗降するコクピット(図3)と車輪の整形覆いによって、空気抵抗の一層の低減が図られた。フレームは、重心を下げるために後車軸の下を通る設計である(図4)。

図2
図3
図4

◆12気筒900馬力
エンジンは、3ブロックの4気筒からなる12気筒で、中央のブロックは直立し、左右のブロックは60度傾斜して共通のクランクケースに取り付けられ、ダブルオーバーヘッドカムシャフトで排気量は23948cc、出力は900馬力である。表面冷却式ラジエーターが後部左右に車体と平行に取り付けられている。変速機は1.5L乗用車並みのコンパクトな3速の遊星歯車式で、ブレーキには真空倍力式サーボが採用され、軽量化の努力により2640kgの車重で完成した。

◆3Lと81Lのエンジン
英国と合衆国とのバトルの第一ラウンドは、このネーピア-キャンベル・ブルーバードに乗るキャンベルと、合衆国の二人の代表、僅か3Lエンジンの軽量なスタッツ “ブラックホーク”を操縦するフランク・ロックハートと、航空用エンジンを3基積んだ総排気量81Lを超えるモンスター、“ホワイト・トリプレックス”のレイ・キーチによって争われる。

今回は、栄冠を取り返すための、マルコム・キャンベルの新ブルーバードを紹介した。
次回は、新ブルーバードの最初の走行の模様をお伝えする。

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