交通安全コラム
第263回 地上最高速の争い(97)―英米のバトルの幕開け(4)―
- Date:
- 2022/08/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、新ブルーバード最初の走行での、キャンベルの新記録達成の経緯を報告した。
今回は、ロックハートのインディー500での活躍と、挑戦する車両の詳細を解説する。
◆インディー初出場で優勝
1926年、インディアナポリスを訪れた際、500マイルレースの前日に病気になったミラー車のドライバーの代役を務めることになり、彼は、新人の出場資格を審査する走行で、1周目にトラックレコードを記録してしまう。レースでは20位からのスタートとなるが、5ラップまでに5位に上がり、16ラップで首位に躍り出て、160周で雨のため終了となった時には、2位を2ラップも離しての優勝だった(図1)。1927年、彼はわずか1.5Lの小さなミラーで、双方向平均時速164.83マイルの新記録を樹立した。

◆スタッツ社の支援
この成功で、ロックハートは世界記録挑戦を決意した。時速203.79マイルの世界記録を樹立したヘンリー・シーグレイブのサンビームは1000馬力だが、彼は、それを破るには3Lのミラーエンジンで十分だと確信した。彼が実験部に所属していた高級スポーツカーメーカーのスタッツ社の幹部がそれを知って、支援団体を作り彼をバックアップすることになる。クルマの設計は大部分をロックハートが行い、製作費の一部も彼が負担している。
◆ブラックホーク
“ブラックホーク”と名付けられたこの挑戦車のエンジンは、ダブルの1.5Lミラーで、直列8気筒が共通のクランクケースに並列に並べられ、二つのクランクシャフトは歯車で中間の小さな歯車に結合され、動力はそこから取り出される。出力は毎分7500~8000回転で400~500馬力といわれる。このエンジンは極めて小さなシャシに搭載され、サスペンションスプリングはボデー外殻の内側に入る様に狭く取り付けられ、空気抵抗低減が図られている(図2)。

◆重量1200kg!
風洞実験でチューニングされたボデーは魅力的で、航空機タイプの表面ラジエーターが、インタークーラーとして、ボンネットの上面に置かれていた。エンジン自体の冷却は氷タンクで行った。ドライバーの風除けまでの高さは地上90センチ、車輪は流線型の覆いでカバーされ、前輪カバーは車輪と一緒に向きを変える。重量はわずか1.2トンで、時速225マイルを目標に設計されていた。同邦のライバルのモンスターは4トンだったので、彼の記録へのアプローチが機械効率を重視した革新的なものであったことがわかる。
◆雨中の挑戦
デイトナでの最初の走行では、速度はがっかりするほど遅かった。しかし、スーパーチャージャーへの空気の流れが不十分なことがわかり、スクープが取り付けられ、ブラックホークは時速200マイルを超えた。
今回は、ロックハートのインディー500での活躍と、挑戦する車両の詳細を解説した。
次回は、彼のブラックホークでの記録挑戦の顛末と第二の挑戦者と車両について報告する。