交通安全コラム

交通安全コラム

第265回 地上最高速の争い(99)―美女と野獣の戦い(2)―

前回は、ロックハートのブラックホークでの記録挑戦と第二の挑戦者について報告した。
今回は、大型大馬力トリプレックスでのレイ・キーチの記録奪取の努力と経過を紹介する。

◆美女と野獣
トリプレックスの設計は、目標速度は時速220マイル程度だといわれたが、粗削りで、クラッチも変速機も前輪のブレーキもなく、車体のフレームは鉄道のレールを2本並べたものだとも、古いトラックのものを使ったともいわれている。出力に極度の自信を持っていたので、流線型化にはほとんど注意を払わなかった。ブラックホークを美女に例えれば、トリプレックスはまさしく野獣であった。

◆規則違反
ところが、オフィシャルは、そのままではトリプレックスの走行を許さなかった。後退ギヤがないので競技規則に反するというのがその理由である。整備士たちは、タイヤにスターターモーターを擦りつけて後退させようとしたが、そもそも、クラッチもギヤのニュートラルもなかったので、36気筒の抵抗に打ち勝つ電池がなかった。

◆後退用補助車輪
しかし、この後退問題は、クルマの本体に手を付けずに解決された。後部に補助車輪を付け、それで後輪を地面から持ち上げる(図1)。レバーを引くと、補助車輪の車軸の歯車と一つのエンジンの歯車にオームギヤが噛合い、エンジンの回転で補助車輪を回す。ただし、減速比が1/500なので後退の最高速度は時速1キロ以下だった。

スライド1

◆侵略者討伐失敗
ロックハートの事故の翌日がキーチの出番だった。彼はトリプレックスを、次第に速度を上げながら何回か走らせたが、突然、前のエンジンの冷却装置の接続ホースが破裂した。ドライバーとの間には隔壁がなかったので、熱水が彼の脚に滝のように注がれ、蒸気がコックピットを満たして視界を遮った。しかし、なんとかクルマを止めた彼は、水泡で膨れた足の手当を受けるため病院へ運ばれた。
英国の侵略者の討伐に失敗した二人のアメリカ人の相次ぐ入院により、英米の対決の第一ラウンドは思わぬ閉幕を迎えることとなった。

◆第二ラウンド開幕
キーチは、火傷した2ヶ月後、合衆国と英国との戦いの第二ラウンドを開始するため、エンジンとコックピットの間に隔壁を追加したホワイト・トリプレックスとともにデイトナに戻ってきた(図2)。1928年4月22日、彼は世界記録に挑戦した。風は彼に敵対したが、状況はどちらかと言えばよいほうだった。最初の南向きの走行では、向かい風にもかかわらず4トンの巨体で、1マイル区間を17.65秒で走破する時速203.966 マイルを記録した。

スライド2

今回は、大型大馬力のトリプレックスでのキーチの記録奪取の努力と経過を紹介した。
次回は、合衆国の英国から記録奪取を成功させたキーチの奮闘をお伝えする。

<前の画面へ戻る

Page Top

SSL GlobalSign Site Seal