交通安全コラム
第267回 地上最高速の争い(101)―美女と野獣の戦い(4)―
- Date:
- 2022/10/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、合衆国の記録を英国に奪取したキーチの奮闘と新たな挑戦者の出現をお伝えした。
今回は、新たな記録挑戦者ロックハートの4回の走行と予期せぬ悲劇をお伝えする。
◆タイヤバースト
高速でのタイヤのバーストは、記録に挑戦するすべてのドライバーに恐れられる大きな危険だった。ブラックホークも、インディアナポリスの工場での台上試験で、時速220マイル以上の速度でタイヤがバーストしたことがあった。その衝撃で、エンジンの取り付けが緩んでマウントから外れ、車体は損傷してしまった。ロックハートはそれを目撃していたけれども、その危険を冷静に受け入れていた。
◆タイヤ損傷
ロックハートは、記録挑戦に当たって自信を感じていた。彼は向かい風の走行に続いて、二回の走行を行った。彼は、ブラックホークの速度を徐々に高めていき、三回目の走行で時速203.45マイルに到達した。この走行の最後で、彼はブレーキを幾分強く踏んだ。この時のスキッドで右側の後輪を大きく傷つけたが、その時は、彼はその損傷に気付かなかった。誰もが、4回目の走行で彼は必ず記録を破るものと期待していた。
◆死亡事故
すべてがうまく進み、記録が彼の手のうちに入るものと思われたまさにその瞬間、時速200マイル以上で、彼の右後輪が突然バーストした。ロックハートが台上で目撃した災害が実走行中に発生した。ブラックホークは左に向きを変え、数百フィート横滑りして、それから空中に3回の大ジャンプをした(図)。彼はベルトをしていなかったので、車外に放出された。意識のなかったドライバーは、ファリファックス郡病院に着いた時には死亡していた。
◆ゲストの証言
この事故を、ロックハートから招待されて現地にいた若いドライバーで、のちにインディー500マイルレースで3回優勝するウイルバー・ショーは自伝で次のように描写している。「私は、彼が迎い風の走行後、平均で時速203マイルを上回る記録をつくるのを計時スタンドで待っていた。そよ風でも追い風なら時速を14~15マイル上乗せできる。新記録の時速208マイルには、復路で僅か時速10マイル速く走ればよかった。クルーが冷却の氷を入れるのを待っていた。」
◆500ヤードのジャンプ
「ついに、ロックハートのクルマが速度を上げて戻ってきて計測区間に入るのを見た。計測区間の途中で後輪がパンクした。クルマは突然左に向きを変えて柔らかい砂に突っ込んだ。車体はフレームから引き離され、回転しながらおよそ500ヤード(457m)宙を飛んだ。3回目の回転で彼は投げ出され、クルマの停止地点の75ヤード以上先に飛ばされた。私は最初に彼のところに到着した一人だったが、助ける手段はなかった。」
今回は、新たな記録挑戦者ロックハートの4回の走行と予期せぬ悲劇をお伝えした。