交通安全コラム

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第272回 地上最高速の争い(106)―キャンベルの誤算(1)―

前回は、記録奪回の使命を託された合衆国の不運なリー・バイブルの悲劇をお伝えした。
今回は、英国の記録保持の努力を続けてきたマルコム・キャンベルの動向を見ていく。

◆設計の問題と経験不足
合衆国がデイトナでの英国の勝利を阻止する試みに失敗して、バトルは幕を閉じた。
前記録保持者で、トリプレックスでの再挑戦を拒否したレイ・キーチは「問題のある設計が、後部を吸い上げ、ノーズを持ちあげた。まともな流線形だったら起こらないことだ。それにドライバーの経験不足が死亡事故を引き起こした。」と語っている。
自己の世界記録が守られたシーグレイブは、祖国に凱旋してナイトに叙せられて引退した。

◆新コースの探索
デイトナ海岸での英・米のバトルで、米国人レイ・キーチが時速207.55マイルの世界記録を樹立した時、キャンベルは、走行条件さえよければ、手持ちのブルーバードでも記録の奪還は十分可能だと考えた。しかし、デイトナ海岸では望ましい走行条件が整う機会は極めて少ないものと判断し、もっと良い条件を求めて、英国とヨーロッパ大陸の海岸を再調査したが、適当な場所は見いだせなかった。

◆南アフリカの僻地
そこで、調査範囲を世界各地の大英帝国領内に広げた。一時、シリアの砂漠も候補に挙がったが、最終的には南アフリカの僻地の干上がった湖である“ファーネーオーク塩盆”にコースを造り、記録に挑戦することを決定した。しかし、そこは、ケープタウンから直距離で450マイルもあり、直行できる道はなく、最寄りの鉄道路線までは120マイルも離れていた。

◆湖の埋め直し
キャンベルがファーネーオーク塩盆の表面を調べたところ、タイヤを切り裂いてしまう鋭い火打石の破片を発見した。そこで、太陽で固く乾いた土で、干上がった湖の底を平らに埋め直さなければならなくなった(図)。必要な機械と作業者は、何百マイルも離れたところから運んでこなければならず、多くの作業者は病気になったり、仕事の過酷さに耐えられずに帰ってしまった。その上、キャンベルは、連絡用の自家用機がクラッシュして負傷するという不運にも見舞われた。

スライド1

◆不運の追い打ち
そこは何年もの間雨が降っていなかった。しかし、埋め直しが完成に近づき、彼が記録挑戦に取り組む準備ができた時、激しい降雨があり、土が乾くまで走行は不可能になった。その降雨が彼の記録達成の機会を葬った。もし降らなければ、彼は、シーグレイブより先に記録に挑戦でき、打ち負かす記録は十分手の届く時速207.55マイルだったので、勝つことができただろうと考えられる。それは、彼がそこで記録した速度で実証されている。

今回は、新コースを造り、記録奪還に挑戦したマルコム・キャンベルの挫折を報告した。
次回は、キャンベルのその後と、新英国人による4000馬力新設計車両での挑戦を紹介する。

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