交通安全コラム

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第244回 地上最高速の争い(108)―キャンベルの誤算(3)―

前回は、失意のマルコム・キャンベルの、新英人ドライバーの採用と高出力車両開発計画を紹介した。
今回は、車両の詳細と記録挑戦の断念の経過と、記録更新のためのキャンベルによるブルーバードの改良方針を紹介する。

◆異常な長さと際立った低さ
ラジエーターの空気抵抗を嫌って、氷による冷却を採用し、走行毎に280kgの氷をタンクに積み込むことにした。一方、狭い車両幅を狙ってバランスの良い60度を捨てて変則的な50度V型を採用した排気量24Lの2000馬力エンジンを、ドライバーの前に二台直列に置くことで4000馬力の大出力を期待した。そのため、テールフィンを含めて9.5mと、クルマは異常な長さになったが、二本のプロペラシャフトをドライバーの左右に通すことによって低い着座位置も可能にし、全高をわずか85cmに抑えた(図1)。

スライド1

◆エンジントラブル
1930年2月、夜を日に継いで完成したシルバーブレットは一般に公開されたあと、デイトナ海岸に送られた(図2)。3月15日の初走行で、新ドライバーのケイ・ドンが直面した問題は、実績のある航空エンジンでは有り得ないことだが、新開発のエンジンの試験を十分に行う時間がなかったことに原因があった。エンジンは、圧縮空気で容易に始動したが、スロットルを開くやいなや、しばしばミスファイヤーをした。17日には、スーパーチャージャーから火が出て、走行をキャンセルしなければならなかった。

スライド2

◆記録挑戦を断念
翌日も、クルマはミスファイヤーで止まり、エンジンの問題は深刻だった。しかし、ドンは、霧で先が十分見えず、砂浜は凹凸が激しかったにもかかわらず、なんとか双方向平均で時速168マイルを記録した。その後悪天候が続き、21日には一方向で時速190マイルに達したけれども、設計目標の出力を発揮できないエンジンではこれが限界であった。さらに悪天候による遅延が続き、シルバーブレットは、ゴールデンアローの記録を破ることなく英国に送り返された。
かくして、時速250マイルを最初に超えようとした英国の試みは、失敗に終わった。

◆1450馬力過給エンジン
 900馬力のエンジンを積んだゴールデンアロー号で、1929年3月に世界記録を達成し、ナイトに叙せられたヘンリー・シーグレイブが引退した今、キャンベルは、英国の世界記録維持は自身の双肩に担っていると感じていた。そのためになすべきことは、ブルーバードのエンジンの出力を高めることであると考え、それまでの900馬力の非過給競技用航空エンジンを、1450馬力の最新過給ネーピア・ライオン競技用航空エンジンと交換することにした。

今回は、キャンベルの高出力車両の詳細と記録挑戦の断念の経過と、記録更新のためのキャンベルによるブルーバードの改良方針を紹介した。
次回は、改良ブルーバードの詳細と記録挑戦の経過をお伝えする。

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