交通安全コラム
第275回 地上最高速の争い(109)―ブルーバード号の復活(1)―
- Date:
- 2023/02/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、キャンベルの高出力車シルバーブレットの詳細と記録挑戦断念の経過、記録更新のためのキャンベルによるブルーバードの改良方針を紹介した。
今回は、改良ブルーバードの詳細と記録挑戦の経過をお伝えする。
◆空気抵抗低減と後輪空転防止
車体は、ブルックランズの著名なレーシングカー設計者であるレイルトンが全面的な再設計を行い、精力的な風洞実験も進められた。コックピットの高さを低くするため、プロペラシャフトがドライバーの脇に移され(図1)、後輪の砂浜へのグリップを向上させるため、鉛のバラストが積み込まれた。ブルーバードは、改修が完了するとロンドン市内のショールームで公開され、合衆国に運ばれた(図2)。


◆空転でエンジン損傷?
キャンベルは、ブルーバードの後を追って1931年1月末にデイトナ海岸に到着した。2月に入って走行を開始したが、霧の中から群衆が進路上に現れ、直前で衝突を免れるというハップニングを経験した。また、計測区間を走行中に突然ギヤレバーが戻り、エンジンが空転して回転計の針が振り切れ、エンジンを損傷させたのではないか、という懸念にも悩まされた。
◆劣悪のコース状況
2月5日、風が強く、海から吹き付ける飛沫により視界は悪く、濡れていたがコンクリートのように固い砂浜には依然として水たまりが散在していた。しかし、キャンベルは考えた。今やらなければ、二度とできないかもしれない。このブルーバードでシーグレイブの記録を破ることには自信があるが、状況が良くなるまで待つても、待ちぼうけになるかもしれない。大差で記録を更新するために待つより、小差でも記録を破る方がよい。
◆助走距離の延長
オフィシャルは、見えない危険が潜んでいる可能性があるので、キャンベルにクルマを戻すように精一杯懇願した。それでもネーピアエンジンが掛けられ、挑戦の響きがこだました。キャンベルは、そのような状況ではクルマの挙動が変わることを考え、助走を長くすることにした。そうすれば、クルマのコントロールに慣れる貴重な十数秒間が余分に得られる。そこで4マイルの代わりに5マイルの助走距離を選択し、クラッチをつないだ。ブルーバードはこれまでにない勢いで加速した。
◆タイヤ交換・エンジン点検せず
キャンベルはアクセルペダルを強く踏み続けた。水の溜まったくぼみに落ち込むと、ブレーキを踏んだように急激に減速する。その度にシートから前に投げ出されそうになったが、タコメーターを一瞥し、時速252マイル相当の回転数だったことを確認している。減速は加速以上の注意が必要になるが、その間に彼は、ダンロップ社の耐久性の保証を信じて、帰路もそのまま同じタイヤで戻ることを決断した。
今回は、改良ブルーバードの詳細と記録挑戦の経過をお伝えした。
次回は、記録挑戦の結果と、引き続くキャンベルの記録への快進撃をお伝えする。