交通安全コラム
第279回 地上最高速の争い(113)―デイトナ海岸の限界(1)―
- Date:
- 2023/04/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、世界記録更新に満足せず、時速300マイルを目標とする、彼の挑戦を追跡した。
今回も引き続き、キャンベルの時速300マイルへの執念の挑戦をお伝えする。
◆ホイールスピン
前回の1933年、キャンベル自身の記録を時速18.49マイル上回る新記録を樹立した走行の際、メーターは時速328マイル相当のエンジン回転数を示したにもかかわらず、結果は時速281マイルだった。この差異を解析した結果、計器やエンジンには異常はなく、倍増近い高出力のため、ホイールスピンの発生頻度が極端に高まり、抜本的な対策が必要であることがはっきりした。
◆ダブルタイヤ
そこでキャンベルは、レイド・レイルトンに1年の期間を与えてブルーバードの再改修を行うことにした。今回、レイルトンは、ホイールスピン対策として、速度記録挑戦車では史上初めて、後輪にダブルタイヤの採用を決断した。さらに、理想家の彼にとっては気が進まなかったが、後部フレームに鉛のデッドウエイトを追加したので、その他の改修も含めて、車重は5トンに達するほどになった。
◆エアーブレーキ
最善を尽くすため、ふたたび風洞実験が繰り返され、車体はタイヤをすべて覆う一体的な形状となった。先端を車体幅一杯の偏平な形状とし、全幅にわたるラジエーターへの空気取り入れ口を開閉式にし、計測区間でそれを閉じて一層の空気抵抗の低減を狙うことにした。さらに、減速と同時にダウンフォースによる安定性の増強も意図して、後輪の直後に左右一対のエアーブレーキを取り付けた(図)。

◆相変わらずの悪条件
改修なったブルーバードが1935年1月にフロリダに着いた時、海岸のコースの状態はこれまでにも増して悪かった。天候も悪く、砂浜は波で浸食され、コースのところどころで迂回が必要になっていた。それでも、キャンベルは、天候の良い合間を見計らって試験走行と整備を繰り返しながら、潮が砂浜の条件を改善するのを待ち続けた。5週間に及ぶ待機中の消息を伝える現地の新聞の見出しを抜粋して紹介しよう。
◆運転は自殺行為
1月28日「キャンベル卿到着、砂浜を視察」、29日「記録挑戦について語る『心配して
いない』」、2月6日「ブルーバード損傷、キャンベル卿心配する」、8日「修理完了、砂浜は危険、試走は月曜日」、10日「本日低速テスト、時速200マイルまで」、14日「ブルーバード時速200マイルで走行」、17日「キャンベル卿『まだ待つ』」、22日「砂浜改善、キャンベル卿望みをつなぐ」、28日「砂浜平坦になる、ブルーバードの突進本日か」、3月1日「記録挑戦は明日」、3日「キャンベル卿二日間で2度命を落とすところ、時速270マイルでゴッグルずれて前が見えなくなる、悪夢」、4日「砂浜は最悪、記録挑戦は延期」、5日「キャンベル夫人 夫を止める『運転は自殺行為』」。
今回は、キャンベルの時速300マイルへの車両改修とデイトナ海岸での試走をお伝えした。
次回は、デイトナ海岸での誰もが失望した記録更新の経緯と彼の今後の計画を報告する。