交通安全コラム
第281回 地上最高速の争い(115)―コースは完ぺき(1)―
- Date:
- 2023/05/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、デイトナ海岸での誰もが失望した記録更新の経緯と彼の今後の検討を報告した。
今回は、新たなコース、米ユタ州ボンネビル塩平原の紹介と試走の準備状況を紹介する。
◆塩の畝
塩の表面は平坦だが、冬に強風で作られる先端が尖った高さ2.5cmほどの固い塩の畝が網目状に至る所で曲線を描いている。必要な範囲の畝は機械で除去されてはいたが、まだ1cmほどの高さで残っていた。キャンベルがこれを見て、振動の原因となってタイヤの粘着力が損なわれる懸念を指摘したため、畝は再度削られて不安は解消した。南アの経験から目標ラインを要求したので、幅20cmのディーゼル''油の黒い線が白い表面に鮮やかに描かれていた(図1)。

''◆試走準備完了
ブルーバードはニューヨークから鉄道で到着した。1935年9月1日の日曜日にコースの準備が完了し、米国自動車協会(AAA)の計時員も到着したので、明日の早朝に試走すると発表された。夜明けにクルマが引き出された時には、町からは極めて遠いにもかかわらず多数の観衆が集まっていた。
◆4%の出力低下
海抜1285mのボンネビルでは、希薄な空気がエンジン出力をおよそ18%低下させる。一方、空気抵抗の低減はおよそ14%に留まるので、出力が実質的に4%程度低下したことになる。マルコム・キャンベルは、この出力損失と塩の路面でのホイールスピンが加速に及ぼす影響を明らかにするため、ブルーバードの走行状態を科学的に計測する準備をしていた。
◆初めての計測記録
電動のコダック製小型シネカメラがコックピットに取り付けられ、24ワットのランプで照明される時計、回転計、油圧計と過給圧計が8コマ/秒で撮影される。100フィートの超高感度パンクロフイルムで、13マイル約4分の走行に対して十分余裕のある16分の撮影が可能である。高速での加速に問題があれば、原因がどこにあるかをこの走行データによって解析することができる(図2)。

◆カウリングの切取り
クルマをコースまで引き出す途中、塩がカウリング内に詰まり始めた。そのままでは前輪の回転が妨げられスキッドを起こす心配があったので、カウリングの一部が切り取られた(図3)。キャンベルの左の腕の捻挫は、まだ完全には回復しておらず、前腕にテープが巻かれた。1935年9月2日月曜日、計時装置の準備に手間取って、太陽が高くなり熱気は強まっていた。8時30分になってやっとOKが出て走行を開始した。

今回は、新たなコース、ユタ州ボンネビル塩平原の紹介と試走の準備状況を紹介した。
次回は、この新しいコースでの、記録挑戦前日の初めての試走の模様を紹介する。