交通安全コラム
第282回 地上最高速の争い(116)―コースは完ぺき(2)―
- Date:
- 2023/06/01
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、新たなコース、ユタ州ボンネビル塩平原の紹介と試走の準備状況を紹介した。
今回は、この新しいコースでの、記録挑戦前日の初めての試走の模様を紹介する。
◆スムーズな走行
クラッチの当たりを付けるため時速180マイル以下で走るように、とメカニックから指示されていたが、走行はスムーズで気付かぬうちに指示された速度を上回った。コースは非の打ちどころがなく、キャンベルは、これまでにない高揚感でもっと速く走りたい欲望を抑えきれず、エンジン毎分2700回転の時速240マイルを維持した。遠くの黒い目標ラインは地球の丸みで消え、50マイル先の山以外には際限ない塩の海原しか見えなかった。
◆コースは完ぺき
計測区間を通過直後、エアーブレーキを使用した。ほとんど効果がないように思えたので、しばらくして機械ブレーキを使った。コースの終点で転向できる速度まで減速でき、テントの下にクルマを入れた。クルマから降りた時、キャンベルは、極度に闘志が高まっていた。コースは完ぺきで、クルマも素晴らしい。いくらかの幸運があれば、明朝には待望のゴールに到達できる。
◆何たる楽しさ!
二つの好印象があった。嫌な振動がなく黒いラインの上を滑っていくような心地良さと、デイトナのように飛び跳ねることがないことである。路面がスムーズなので、シートベルトを使うことをやめた。先で見えなくなる黒い目標ラインを見ながら走るのは、無限のリボンを追いかけるようだ。何たる楽しさ!
◆はたして止まれるか
しかし、本番ではコースの端ではたして止まれるか、という疑念も生じた。計測区間の両端の走路はデイトナの5マイルより長い6マイルあるが、空気が薄く転がり抵抗が少ないことが心配である。北へ向かって走る場合、コースの端には路面が柔らかい部分があり、クルマがはまり込む恐れがある。南向きは、端に道路の土手があり、避けるために旋回しなければならない。最初の走行は北向きで、強い日差しを避けるため明朝6時の走行開始、と決めて準備を依頼した。
◆これまでにない加速
1935年9月3日の夜明けにクルマが引き出された時には、数千人のマニアがコースに列
をなしていた。夜間に計測ワイヤーが切断されていたので、走行許可が下りたのは、太陽
がすでに高く、暑さが増しつつあった7時過ぎだった。キャンベルは、1速で発進しながら
カメラと計器のスイッチを入れた。今回はスロットル全開で、時速100マイルで2速へ、
時速200マイルで3速に入れ、これまでにない加速を行った(図)。

今回は、ボンネビルのコースの好条件を確認した初めての試験走行の模様を紹介した。
次回は、この新しいコースでの、新記録挑戦の経過を詳しくお伝えする。