交通安全コラム

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第283回 地上最高速の争い(117)―コースは完ぺき(3)―

前回は、新たなコース、ユタ州ボンネビル塩平原の紹介と試走の準備状況を紹介した。
今回は、このコースでの新記録挑戦をマルコム・キャンベルの報告からお伝えする。

◆視界不良と排気ガス侵入
2マイル標識を通過したところで、ラジエーターシャッターを閉じようとレバーを押した途端、問題が発生した。ウインドスクリーンに油の膜が広がり、エンジンからの刺激的なガスがコックピットに侵入してきた。速度が上昇すると事態はさらに悪化した。計測区間の中程で、視界は黒いラインがかろうじて見える程度に悪化し、頭が痺れるような感覚が始まり、キャンベルは今にも失神するのではないかと思った。

◆左前輪パンク
黒いラインを完全に見失っていたが、計測区間の終点の赤旗は見えた。急いでアクセルペダルから足を離し、エアーブレーキを作動させた時、突然激しい衝撃を感じた。左前輪タイヤがパンクし、破片が四方に飛んだ。クルマは左に向きを変えたが、修正操舵には反応した。次第に重くなるハンドルと格闘して、なんとか蛇行は収めたが、早くクルマを止めなければならない。

◆時速304.11マイル
タイヤが耐えられるかを危ぶみながら機械ブレーキを使ったが大丈夫だった。クルマがコースの端で待っていたメカニックの手前で停止したので、彼らはトラックにタイヤ、ジャッキ、エンジンスターターを積んで駆け付けなければならなかった。スクリーンとゴッグルの油を拭くのに貴重な時間を費やし、タイヤ交換に30分以上かかった。オートバイの伝令が来て、速度は時速304.11マイルだったと告げた。

◆辛くもスタート
準備が出来たところで、計測ワイヤーの不具合で待たされた。OKは出た時、今度はエンジンが掛らなかったが、規定の許容時間の5分前になって辛くもスタートできた。ラジエーターシャッターを閉じなくとも時速300マイルには届くと判断し、帰路では閉じないことにした。計測区間通過後、アクセルペダルの離し方が速すぎたので激しいスキッドを起こしたが事なきを得た。

◆宿願成就
今度は、エアーブレーキを作動させ、早めに機械ブレーキも掛けた。それでも止まれるか心配だったが、230m余裕を残して何とか止まることができた。帰路は時速300マイルを超えた自信があったが、受けた連絡では時速296マイルなので、平均値は時速300マイルを下回ることになり、キャンベルは落胆した。ところが、間もなく計算に誤りが見つかった。訂正された平均値は、1マイルで時速301.129マイル、1キロで時速301.473マイルだった(図)。

スライド1

◆再挑戦を断念
しかし、キャンベルの気分は高揚しなかった。記録はもっと良くなるとの確信があったので、明日再挑戦したいと申し入れたが、米国自動車協会(AAA)から、新記録が達成されたのだから、と説得され思い止まった。

今回は、記録挑戦の経過と見事時速300マイル達成をキャンベルの報告からお伝えした。
次回からは、キャンベル引退後に登場する二人の英国人ライバルのバトルをお伝えする。

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