交通安全コラム

交通安全コラム

第285回 地上最高速の争い(119)―好敵手対決(2)―

前回は、これまでの好敵手対決と、次の対決の登場人物の一人、イーストンを紹介した。
今回は、イーストンが計画した銀色に輝くモンスターの驚くべき技術内容を紹介する。

◆地上最高速記録
フランスとボンネビルで、多くの記録を残したイーストンは、そこに留まらず、もっと大衆にわかり易く、自身の満足度も高く、財政的支援の得やすい世界地上最高速記録に目を向けることとなった。彼には、野心だけではなく、クルマについての的確で優れた発想があったので、1937年の初めに支援者が現れると、計画をすばやく具体化した。

◆5000馬力
 イーストンは、優れた機械技術者でもあったので、彼が好んで暮らしていたフランスでプジョーの技術者と理想のレイアウトを議論した。必要になるエンジン出力は目標速度の3乗に比例する。当時の記録、時速301マイルが2400馬力のエンジンで達成されているので、目標を時速350マイルとし空気抵抗の増加等の余裕を見て、合計の排気量が73Lで5000馬力になる2台のシュナイダー杯用過給航空エンジンを搭載することにした。

◆史上初の8輪車
大出力の路面への確実な伝達を意図して、2台のエンジンを並列にドライバーの後ろに置いて、重心位置を後退させる近代的なミッドシップ・エンジン・レイアウトを採用した(図1)。さらに、7トンにも及ぶ総重量を分散することでタイヤの負担を軽減し粘着を助けるために、駆動輪はトラックのようなダブルタイヤの4輪とした。前輪にも2軸操舵トラックのように舵が切れる4輪を採用したので、史上初の8輪車となった。エンジン出力は、それぞれのクラッチから一つの3速ギヤボックスを経て、差動装置のない最終減速機構に伝えられる。

スライド1

◆ディスクブレーキ
すべての車輪は横置きの板ばねと頑丈なパイプのウイッシュボンで独立に懸架される。さらに先進的な特徴は、面同士がクラッチの様に押しつけられる形式のディスクブレーキの採用である。前輪のディスクブレーキはバネ下重量軽減を狙って、後側の車輪から延長軸によってインボードに置かれ、後輪のディスクブレーキは変速機に取り付けられている。さらに、後部ボデーの側面に埋め込まれて取り付けられたエアーブレーキが、油圧作動で減速を助ける。

◆洗練された外観?
先頭の前輪の間隔は、先端部にテーパーが付けられるように、後側の前輪よりもかなり狭くなっている。コックピットを後側の前輪とエンジンとの間に配置し、すべてを包み込む流線形のボデーは、耐食性アルミニウム合金で造られた。しかし、ラジエーターへ空気を送る大きな先端の口とボデー上面から突出しているエンジンへの空気取り入れ口や排気管の端末は、残念ながら洗練されているとは言い難く、方向安定性を確保するために必要と考えられて採用された、三角定規のような巨大な垂直尾翼によっても外観が損なわれている(図2)。

スライド2

今回は、イーストンが計画した銀色に輝くモンスターの驚くべき技術内容を紹介した。
次回は、史上3度目のライバル対決の相手となる好敵手とその計画を紹介する。

<前の画面へ戻る

Page Top

SSL GlobalSign Site Seal