交通安全コラム
第288回 地上最高速の争い(122)―好敵手対決(5)―
- Date:
- 2023/09/01
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、イーストンのボンネビルでの旧車の記録挑戦とサンダーボルトの走行を紹介した。
今回は、イーストンの記録達成とサンダーボルトの更なる性能向上の対策をお伝えする。
◆抜本的対策
初めてのフルスロットルでの試験走行で、サンダーボルトはこれまでの記録挑戦車には見られなかった優れた安定性と操縦性を披露したが、クラッチの抜本的な対策が必要と考えたイーストンは、自ら設計変更を監督した。新しい部品の製作がロスアンゼルスで行われるため1週間以上が必要で、塩平原が良い条件を保って今年もう一度の挑戦を許すかどうかが気掛かりだった。
◆クラッチはOK
11月19日、サンダーボルトは再度の記録挑戦の準備ができた。最初の北向きの走行では、新しいクラッチに問題は起こらず、1キロ区間で時速305.59マイルを記録した。車輪交換と給油を16分で済ませ帰路についた(図)。クラッチは故障しなかったが、およそ時速300マイルでゴッグルが風で吹き上げられたため、一方の手でそれを戻す間、イーストンは片手で操縦しなければならなかった。

◆世界記録更新
それにもかかわらず、彼の南向きの走行は1キロで時速319.11マイルを記録し、平均時速は312.00マイルとなり、世界新記録だった。1キロの計測区間の終点は、1マイル区間の終点にある。1マイル区間では時速317.74マイルだったことは、クルマは計測区間内でも加速していたことを示している。彼は「非常に気分が良かったので、最後の標識を過ぎても加速を続けた」と語っている。
◆英国向け放送に出演
イーストンがガレージに戻る頃には土砂降りの雨となって、その年のそれ以上の挑戦は不可能となった。現地からの英国向け放送で、彼は「まだ速度は出せるが、今のところ時速312マイルで十分、もし、不十分だと言う人がいたら、自分でやってほしい」と語った。
◆サンダーボルトの改修
イーストンは、キャンベルの記録を時速10マイル以上上回る新記録を樹立した直後は、その記録に満足していた。しかし、ライバルのジョン・コッブがサンダーボルトを上回ると予想さられる高性能のクルマで記録挑戦の準備をしていることを知ると、自身の記録を守るために、まだ性能向上の余地は十分にあると考えるサンダーボルトの改修に着手した。
◆軽量化と脱着式テールフィン
まず、サスペンションの板ばねをコイルスプリングに替えて重量の軽減を行った。風からドライバーを守るため、コックピットが完全密閉にされた。前回、排気の侵入で呼吸困難を経験したので、酸素吸入装置が備えられた。テールフィンは、有効性が判断できなかったので、空気抵抗の低減を狙って取り外し可能に改修された。
今回は、イーストンの記録達成とサンダーボルトの更なる性能向上の対策をお伝えした。
次回は、翌年のボンネビルでの両者の直接対決となる第二ラウンドの模様をお伝えする。