交通安全コラム
第289回 地上最高速の争い(123)―好敵手対決(6)―
- Date:
- 2023/09/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、イーストンの記録達成とサンダーボルトの更なる性能向上の対策をお伝えした。
今回は、改修したクルマで、記録を大幅に更新したイーストンの挑戦の経過をお伝えする。
◆二人の直接対決
1938年、イーストンは、ライバルのジョン・コッブが到着する前に走行を完了しておきたいと望んで、早めにボンネビルに到着した。しかし、溜まった水の排出の不手際で、5週間も待たされた。その結果、イーストンとコッブの二人が互いの面前でバトルを演じることになり、世界の耳目は、ほぼ3週間にわたって、その成り行きに釘づけになった。
◆大幅な速度アップ
試走でサーボ機構が効き過ぎてブレーキを激しく掛けたので、イーストンは、濃い煙がコックピットに充満するという危険に陥った。酸素吸入装置のため、彼は辛うじて息はできたが、コースが見えなくなったので、クルマは進路を逸れてしまった。しかし、8月24日の水曜日には、最初の走行で、自身の記録を大幅に上回る時速347.16マイルに到達した。
◆不本意な黒塗り
ところが、戻りの走行では計測装置が速度を記録しなかったので、双方向の平均値が出せず、新記録達成はならなかった。計時係員が問題の再発を防ぐためにあらゆる対策を検討した。きらめく太陽と眩い塩の白さで、車体の輝きが光電管に影響したことが問題の原因と考えられ、急遽、サンダーボルトは、それまでの明るい金属色から醜い黒色に塗装された(図1)。

◆自身の記録を更新
イーストンの再挑戦が予告された8月27日の金曜日には、水曜日の驚くべき記録に熱狂した人々が大挙して押し寄せた。彼は、北向きの走行で時速347.49マイルを、南向きの走行では時速343.51マイルを出し、1マイル区間の平均時速345.50マイルを樹立して、自身の世界記録を更新した(図2)。計測区間内でも加速していたので、必要ならもっと速く走ることができる可能性も示した。

◆ライバルも祝福
終始イーストンの挑戦を観察していたライバルのジョン・コッブも、この快挙を祝う一方で、彼を打ち負かそうと準備を進めた。イーストンも、必要とならばコッブを打ち負かすことができるよう、用意を怠らずに塩平原に留まっていた。
◆弁慶と牛若丸
コッブの“レイルトン”号の2台の古い9年前の航空エンジンの出力は、それぞれ1250馬力で、総出力はイーストンのサンダーボルトの半分に過ぎず、およそ2500馬力に限られていた。このエンジンと、ダンロップによって指定されたタイヤの許容荷重の制約のため、レイルトンの重量は低く抑えられ、サンダーボルトのおよそ半分だった。まさに、弁慶と牛若丸の戦いである。
今回は、改修したクルマで、記録を大幅に更新したイーストンの挑戦の経過をお伝えした。
次回は、いよいよライバル、ジョン・コッブの登場する第三ラウンドをお伝えする。