交通安全コラム
第295回 地上最高速の争い(129)―記録争いの再開(2)
- Date:
- 2023/12/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、大戦前の最後の記録の保持者、ジョン・コッブの記録更新への準備をお伝えした。
今回は、走路の条件が悪化したボンネビルの状況と相次ぐトラブルを紹介する。
◆ホイールスピン
コースの管理当局は穴を埋め、盛り上がった峰をつなぐ網目を滑らかに削った。それでも、走行を開始した時は、依然としてかなりバンピーだった。この凸凹が、当然、ホイールスピンをもたらし、タイヤにより大きな負担を与えた。さらに、にわか雨がコースの準備を妨げた。今回の挑戦は、最初からすべてがうまくいかないように思われた。
◆相次ぐトラブル
気化器がトラブルに見舞われ、混合気を薄くするため、燃料通路を細く絞る部品を作らなければならなかった。続いて、給油回路の詰まりでカムシャフトが破損し、英国から空輸で新しい部品が到着するまで、走行が延期された。さらに、クルマが、柔らかい塩の領域で沈み込んで、氷タンクに穴が明いて水が漏れ出した。帰国すべきだという意見も出始めた。
◆タイヤの欠乏
ダンロップは、26箱のタイヤを持ち込んだが、問題が次々と発生したため試走が増え、タイヤ不足に脅かされた。新しいタイヤを記録挑戦用に確保するため、タイヤ交換を控えたので、4回以上使われるタイヤもあった。帰国すべきだとの意見もでたが、コッブは、記録挑戦の決心を変えなかった。
◆車体に亀裂
1947年9月14日、やっとすべての問題が解決し最初の記録挑戦を行った。コッブは1939年の記録より速く走り、一方向で時速375.32マイルを記録した。しかし、そのあと、クルマの軽量アルミ合金のボデーシェルに亀裂が発見され、戻りの走行はできなかった。ボデーの補強を行ったが、翌日は、風が強くて走れなかった。
◆準備完了
16日も風は治まらなかったが、午後遅くなって、記録走行が可能となる程度に弱まった。ダンロップの技術者が記録挑戦用タイヤの空気圧を点検したあと、バルブキャップが針金で固定されてクルマに取り付けられ、ボデーが被せられるまでタイヤへの陽射を避ける配慮がなされた。エンジンが暖気され、燃料とかき氷が積み込まれ、エンジンストールを防ぐ機構が作動状態にされた。
◆強烈な加速
コッブは、クルマの上に渡された踏み板からコックピットに乗り込んだ。トラックが押し掛けでエンジンを始動させると、彼はアクセルペダルを床まで踏み下ろし、およそ時速120マイルでギヤレバーを2速に入れた。今年はストール防止機構のため、エンジンが止まることはなく、およそ時速250マイルでギヤをトップに入れて加速を続けた(図)。
今回は、走路の条件が悪化したボンネビルの状況と相次ぐトラブルを紹介した。
次回は、悪条件を克服して、記録更新を目指すドライバーとチームの奮闘を紹介する。