交通安全コラム

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第309回 地上最高速の争い(143)―時速600マイルへの野望(4)

前回は、時速600マイル挑戦車、スピリット・オブ・アメリカ号の製作経過を紹介した。
今回は、その製作過程の詳細を補足し、資金調達について報告する。

◆低速ではブレーキ操舵
操舵系では、機構の複雑化を嫌い、また、巨大な推力のもとでは、前輪を操舵してもクルマの向きを変えることは難しいと判断し、ユニークな操舵システムが採用された。それは、三つのブレーキペダルを備え、真ん中のペダルでは後輪の左右のディスクブレーキを同時に均一に作動させ、左右のペダルで、左右のブレーキを独立に効かせてクルマの向きを変える。

◆高速では空気力学的操舵
ブレーキによる進路の修正は時速150マイル以下で、より高速では、ノーズ下のフィンの向きを動かして、空気力学的に行われる。風洞実験により、かなりの方向変更でも、フィンの角度は僅かで十分であることを確認した。フィンの操作は通常の丸ハンドルで行われる(図1)。

スライド1

◆リボンパラシュート
時速600マイルからの減速では、宇宙船回収システムメーカーのリボンパラシュートを使用する。パイロットシュートは、胴体に絡まるのを防ぐため火薬で空中に放出され、第一段階は、シュートは直径1.2mに開かれ、2Gの減速をする。10秒後、減速度が1.5Gに低下すると全開して2.5mになる。二組のシュートシステムを備え(図2)、ハンドルのエンジン停止と連動する二つのボタンで展開する。

スライド2

◆重要なダクト設計
ジェット車両では、エンジンのダクトの形状の設計が非常に重要になる。前面面積は最少にして、しかも、十分な流量を確保する必要があり、渦をつくらないなだらかさには長さが要求される。その上、カウル外形は小さくすることが求められる。結局、長さは、“空飛ぶ使者の杖”号の二倍以上の3mとなった。

◆妻と友人の支援
製作は、ロスアンゼルスのブリードラブの家の裏のガレージで行われていたが、大きくなるクルマを収容するには狭くなっていた。ブリードラブと同様にスピードマニアだった妻のリーも彼を助け、ダクトの内面の仕上げに80時間を費やした。スピードマニアの友人たちも、毎晩、ガレージでクルマに取りついていた。

◆資金不足
妻や友人の奉仕は無料だったが、部品は別だった。間もなく、ブリードラブは資金不足に陥った。そこで、彼は前約なしに、サンタモニカのシェル石油の事務所を訪れ、受付で、支配人に話がしたいと頼んだ。支配人は極めて多忙だったので、代わりの役員が5分間だけの約束で話を聞くことになった。

今回は、スピリット・オブ・アメリカ号の製作過程の詳細と資金調達について報告した。
次回は、資金の獲得と改修した操舵系での、翌年の再挑戦の経過をお伝えしていく。

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