交通安全コラム
第311回 地上最高速の争い(145)―時速600マイルへの野望(6)
- Date:
- 2024/08/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、資金の獲得と改修した操舵系での、翌年の再挑戦の経過をお伝えした。
今回は、操舵系を改修したスピリット・オブ・アメリカでのボンネビルでのブリードラブの記録挑戦の前半をお伝えする。
◆記録挑戦を決行
翌日の8月5日月曜日、使用可能なコース長が9マイルで、ジョン・コッブの記録走行当時より短く、路面はかなり凹凸がある。その上、ドラッグシュートが 早く飛び出すかもしれないという危険もあった。しかし、彼は、風がほとんどない好条件だったので、記録に挑戦することにした。
◆荒れた路面
彼はヘルメットを着け、アルミの梯子を登り、身体を縮めてバケットシートに座った。発進の合図と共に彼はブレーキを離し、午前6時29分に23回目の走行を開始した。初めは、加速はややぎこちなかったが、速度が上がるにつれて、加速度は急増した。路面の凹凸で、車輪が地面から飛びあがる度に、前輪ががたがた音をたて、車両全体が恐ろしく振動した。
◆世界記録と同タイム
計測区間を通過中、横風が吹き付けたので、彼は意識をハンドル操作に集中した。エンジンが切られ、パラシュートが飛び出して、クルマを少し蛇行させたが、無事にクルマはコース北端で停止した(図1)。
1キロ区間での記録は、世界記録と同じ時速394マイルで彼を勇気づけた。

◆かなりの横風
帰路は、回転数を当初の2%ではなく、5%高めることで記録達成を確実にする決断をした。しかし、山から秒速13mの横風が吹き始めたので、風が収まるのを期待して待つことにした。ところが、''時間がたつにつれて風が強まってきた。往復の走行は、1時間以内に完了しなければならない。
◆95%スロットル''
ブリードラブは、風が強まったにも拘わらず、午前7時15分、95%の最大スロットル設定を使って戻りの発進をした。前輪は跳ね上がり、クルマは激しく振動し、突起にぶつかる度にのたくる前輪の傾向は、進路の維持に大きな試練を与えた。たが、彼はすべての注意を黒いラインを維持することに集中した(図2)。

◆早すぎるドラッグシュートの展開
横風がクルマをコースからおよそ12mも逸らせたが、彼は、力を振り絞って1マイルの計測区間を通過した。すると突然、ドラッグシュートが展開してしまった。その衝撃で、クルマの前部が空中に持ち上げられたあと、地面にたたきつけられた。しかし、彼は何とか減速し、クルマは無事に止まった。
今回は、操舵系を改修したスピリット・オブ・アメリカでの記録挑戦の前半を報告した。
次回は、新記録達成が懸った帰路での彼の奮闘の結果をお伝えする。