交通安全コラム
第312回 地上最高速の争い(146)―ジェットクラスで世界記録
- Date:
- 2024/09/01
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、操舵系を改修したスピリット・オブ・アメリカでの記録挑戦の前半を報告した。
今回は、新記録達成が懸った帰路での彼の奮闘の結果をお伝えする。
◆平均時速407.45マイル
チーム全員が、戻りの走行の速度の知らせを待ったが、それは非常に長い時間に感じられた。ブリードラブは時速425マイルと予測していた。遂に、オフィシャルの一人が計時員に「速度をもう一度言ってください」と言う声が聞こえた。帰路1マイルの公式速度は、時速428.37マイルで、平均速度は1マイル区間で時速407.45マイルだった。ブリードラブは、ジョン・コッブの世界記録よりも速く走った。
◆期待する群衆
ブリードラブは、最大出力を使わなかったので、もっと速く走れる自信があり、3度目の走行をするための燃料の注入を指示した。しかし、オフィシャル達は彼を引きとめて説得した。「あなたは、既に世界記録を時速13マイルも上回る記録を達成している。これ以上の挑戦は、誰かがあなたの記録を破ってからでも遅くはないと思う。」彼は同意した。
◆自動車ではない
彼は4年間働き続けて26歳にしてついに目標に到着したが、本当に目標に到達したのか。彼は、この計画を始める時に、記録として公認されないかもしれないと考えていた。案の定、国際自動車連盟(FIA)は、彼の速度を公式の1マイルの新記録として認めることを拒否した。彼らの帳簿では、スピリット・オブ・アメリカは自動車ではなかった。
◆最速の男でもない
FIAの定義では自動車は4輪でなくてはならない。スピリット・オブ・アメリカは3輪だ。しかも、規則で要求されている車輪駆動ではなく、ジェットの推力に頼っている。その上、クレイグ・ブリードラブが地上最速の男でもないことを、早くも指摘するうるさ型も現れた。米国空軍のジョン・スタップ大佐が、すでにレール上のロケットそりで、時速632マイルに達していた(図)。

◆FIM記録を承認
しかし、ブリードラブは二輪車のモータースポーツを統制する国際機構であるFIMから公式の国際承認を得ることができた。FIMは、スピリット・オブ・アメリカをサイクルカー、すなわち自動三輪車と認め、新しいジェットクラスを新設し、その記録として公式に受け入れた。走行を公式に計測したアメリカ自動車クラブもジェットクラスとして、同様に承認した。クレイグ・ブリードラブが車輪上での世界最速の男であることには、議論の余地はなくなった。
今回は、操舵系を改修したスピリット・オブ・アメリカによるボンネビルでのブリードラブの新記録達成の快挙と、記録の承認についてお伝えした。
次回からは、車輪駆動での記録達成に執念を燃やす英国の挑戦者の行動をお伝えする。