交通安全コラム
第316回 地上最高速の争い(150)―英国人の執念―失意の撤退―
- Date:
- 2024/11/01
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、記録挑戦を妨げる降雨との戦いを報告した。
今回は、苦心して建設したコースの水没による失意の挑戦断念をお伝えする。
◆洪水の到来
ブルーバードをセミトレーラーに載せるためには、ランプを砂で固めなければならなかった。牧場までの道には深さ30センチもの轍があり、5月18日朝から、陸軍のレッカーに牽かれて、午後4時にやっとの思いで牧場に到着した。その8時間後、恐ろしい洪水が到来し、2時間もしないうちに水は最大深さ3mで1/2マイルの幅に達した。
◆飛行機での脱出
南への道路が増水のため遮られ、ブルーバードの一隊は牧場で、陸軍と警察は駅で、数日間孤立していた。しかし、幸い、滑走路は水の上だったので、かなりの者が飛行機で脱出した。しかし、設計者とチーフメカニックなどはクルマを塩水から守るために留まっていた。
◆撤退の決断
エア湖は、南オーストラリアの周囲の数千平方マイルの土地の排水槽の様相を呈した。早くても来年2月までは記録挑戦には使えないだろう(図)。キャンベルはこの年の挑戦を断念し撤退することを決断した。激しい挫折感と暗澹たる雰囲気の中で、チームメンバーは長い辛抱が報われなかった嘆きの言葉を語り合った。

◆軽蔑と非難
非常に悪いタイミングで、アメリカ人クレイグ・ブリードラブがジェット推進の3輪車で、キャンベルが使えないとしたボンネビルの塩平原で、問題なく時速400マイルを超えた。そのニュースが伝えられた時には、ジャーナリズムは、キャンベルの挑戦の失敗を軽蔑し、彼らが直面した厳しさと困難さを知らない大衆は、前にも増していらいらした。
◆スポンサーの反応
放出品の戦闘機のジェットエンジンをクルマに載せた男が時速407マイルを達成したのだから、何故ブルーバードの洗練された高度の装備でキャンベルは超えられないのか。スポンサーの一部も同様の反応を示した。キャンベルがスポンサーに、ジェット推進では公式に世界記録と認定されることはない、と強調しても無意味だった。
◆コースの水没
翌1964年は、主要なスポンサーだったBP社が手を引いて、予算が厳しくなり、記録達成を迅速に行うことが絶対的条件になった。しかし、キャンベルが現地に到着した時、事前にチームが重労働で整備した、理想的な全長17マイルのコース“ペッパー・ラン”の一部が降雨で水没したと知らされた。
今回は、苦心して建設したコースの水没による失意の挑戦断念をお伝えした。
次回は、ふたたび雨で妨げられる、翌年の再挑戦でのチームの苦闘の模様をお伝えする。