交通安全コラム
第317回 地上最高速の争い(151)―英国人の執念―再挑戦でも苦闘 (1)
- Date:
- 2024/11/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、苦心して建設したコースの水没による失意の挑戦断念をお伝えした。
今回は、翌年の再挑戦での、ふたたびの不運とチームの苦闘の模様をお伝えする。
◆ブルーバード走行可能に
路面は昨年の洪水の影響で柔らかく、ブルーバードをトレーラーでムルーリナ牧場から湖に移動するのに難渋した。放置されていたガスタービンは、電気系統の塩による腐食で始動に苦労したが、なんとかブルーバードは走行可能になった。しかし、水が引けても、柔らかな路面がタイヤの荷重に耐えられるかが疑問だった。
◆ふたたび降雨
5月1日には空に太陽が輝いた。キャンベルは、翌日、最初の試走を行う決心をした。普段は、ブルーバードは格納テントに入れられるが、その日は、朝一番で発走できるように準備して露天に停められていた(図1)。しかし、夜、雨が降り始め降り続いた。乾燥して穏やかな筈の4、5月に、2年続けての降雨は例がなかった。

◆絶望的路面条件
翌日、キャンベルが飛行機で上空から見ると、エア湖は湖に変わり、ブルーバードのあるキャンプは孤島だった。それでも、5日に乾燥度の高いコース区間を使ってテスト走行を行ったが、結果は絶望的だった。路面が柔らかく、時速170マイルで、轍は8センチの深さに達した。そのような深い轍を掘るようでは、記録達成はおぼつかない。
◆コース状況を精査
翌日、キャンベルは飛行機から、時間をかけてペッパー・ランの長い走路を徹底的に観察した。さらに、チームメンバーとともに、コース全長を歩いたが、走路の表面を蹴ると、かかとがズブッと入る箇所もあった。コースが乾いて固くなる時間を与えるために、記録挑戦を数か月待つという選択肢が現実的になってきた。
◆コースの新造
しかし、キャンベルは、新しいコースを造る決断をした。切り拓いたコースの表面は十分に固く、コースの長さを伸ばせば記録挑戦に使えそうだった。時速400マイルへの加速に必要な区間が、ペッパー・ランの軟弱部分と交差してしまうという問題はあったが、他に適切なコース設定地はないため、軟弱部分を固くするために轍を塩で固めた。
◆異常振動
新コースでの走行で、キャンベルは、時速300マイルで、突然、地平線がぼやけて見えるほどの激しい振動を感じた。しかし、ホイールとタイヤを交換すると振動は収まった。ところが数回の走行後、時速307マイルで再び振動が発生したが、ふたたびホイールとタイヤを交換すると、振動は消えた(図2)。原因はホイールの内側に付着した塩だった。

今回は、ふたたび雨で妨げられた翌年の再挑戦でのチームの苦闘の模様をお伝えした。
次回は、またもや雨で記録挑戦の延期を強いられるチームの苦悩と労苦をお伝えする。