交通安全コラム
自動運転(15)―車車間通信が先か?―
- Date:
- 2014/10/31
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、自動運転の普及によって生ずる可能性がある失業の問題とその対応を検討した。今回は、自動運転と並んで交通事故低減を目指した無線情報通信技術への関心の高まりを紹介する。
◆自律型自動運転
これまで話題にしてきた自動運転は、交通事故の低減と交通の効率化を目指す技術で、その究極の姿は、GPSの位置情報と道路地図情報を基に、車載センサーで走行環境と周囲の道路使用者を把握して、すべて自力で進路と速度を決定して走行するもので、これは自律型自動運転と呼ばれる。グーグル社が目指すのは、この形式の自動運転である。
◆V2V、V2X
一方、自動運転のように、運転のできない人のクルマでの移動を可能にする利便性はないが、無線通信技術を使って自車両と周囲の車両間、道路間で必要な情報を交換することで衝突事故を防ぎ、交通流の円滑化を図ろうとする研究開発も世界規模で行われてきた(図1、2)。車車間はV2V(Vehicle to Vehicle)と略称され、車と種々の対象間はV2Xと総称されている。
◆見通し厳しい自律型
最近の情報では、自律型自動運転の実用化の見通しが厳しくなっている。9月2日のウォール・ストリート・ジャーナルによれは、自動運転の進捗状況に関する報告書によると、自動運転車はまだ多くの障害物をよけて走行することができないため、現時点で走れる米国の公道は全体の1%未満にとどまっている、とのことである。
◆道路情報のアップデート
走行できる道路が、周辺の詳細を含めた地図情報がしっかりしている区間のみに限られるのであれば、それを増やすには、高機能高性能のセンサーで新たな道路情報を収集し、その処理が必要になる。自動運転車の公道走行が認可されると、さらに、取得したすべての道路情報を絶えずアップデートすることが求められるようになり、多大な労力が発生する。
◆V2Vの実用化促進
このような問題の存在を予測していたのか、米国運輸省の道路交通安全局(NHTSA)は、2014年2月に、車両同士が情報を交換することにより、衝突などの事故を避け、より安全な走行が実現できる、とした声明を発表している。そして、これまでの長期にわたる研究開発と実証実験の結果に基づいてV2Vの実用化のための法整備を行い、早ければ2017年から、新車への機器の装備を義務付ける、とこの分野の技術開発の促進を意図した予告をした。
今回は、自動運転実用化の見通しが厳しくなり、V2Vに期待が移ってきたことを報告した。次回からは、V2V、V2Xも含めて道路交通情報技術の開発の経過を見ていこう。