交通安全コラム
道路交通情報工学(1)―初期の道路交通情報技術―
- Date:
- 2014/11/14
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、自動運転の進捗状況から、車車間通信の早期実用化が提案されたことを報告した。
今回は、車車間通信を含む道路交通情報工学の歴史から、その初期の状況を顧みる。
◆V2X
2014年に米国運輸省は事故の大幅な減少を目指して、乗用車の車車間(V2V)通信機器搭載を義務付ける意向を発表し、V2I (I:インフラ)、V2P(P:歩行者)、V2M(M:モーターサイクル)などにも言及した(総称してV2X)。このような道路使用者同士あるいは道路インフラとの情報交換のアイデアは、「道路交通情報工学(RTI:Road Transportation Informatics)」に含まれ、新しいものではない。
◆RTIの始まり
出現当初は自由勝手に走行していた自動車は、増加と性能向上で衝突事故と渋滞を発生させた。対策として、警官が交通整理を行ったり、交通信号機が交差点に設置された(図1)。運転者には右左折の際に手信号による合図が義務付けられ、その後、方向指示器が装備されるようになった。これらは道路交通情報工学の原始的な姿であろう。
◆必要あれど開発困難
第二次大戦後、世界各地で道路の整備が限界に達し、さらに増加する自動車による都市部の交通渋滞が多数の事故と膨大な経済的損失をもたらすようになった。その対策として、進歩してきた無線通信技術を利用する情報伝達が注目されるようになった。しかし、発想はあっても、その実行には大規模な研究開発を必要とするため、容易には進展しなかった。
◆先進的な発想
1966年になって、DAIRと名付けられた交通情報提供・経路案内システムがGMから提案された(図2)。それは、目的地までの経路を打ち込んだパンチカードを装置に挿入しておくと、道路に埋設した磁石の情報で、前面のディスプレイに、直進・右左折の指示と、路傍の発信器からの速度制限や交通標識の情報が表示される。さらに、シチズンバンドの電波を使用する、緊急用のクルマ同士とセンター間の通信機能も用意されていた。
◆関心は宇宙開発へ
これは、GPSが存在せず、通信ネットワーク技術が未発達で、コンピューターが巨大だった当時、現在のナビゲーションシステムとV2Xに近い機能を目指した野心的な提案だった。これが刺激となったか、続いて米国運輸省が車載装置による経路誘導システムの研究を始めたが、国家の関心はソ連と競争する宇宙開発に向かい、道路交通情報工学には長期間のブランクが発生する。
今回は、原始的な道路交通情報工学と1960年代に出現した先進的な提案を紹介した。
次回も、その後の米国の道路交通情報工学の開発の経過を見ていこう。