交通安全コラム
道路交通情報工学(2)―米国の道路交通情報技術開発―
- Date:
- 2014/11/30
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、原始的な車車間・路車間通信の始まりと米国における技術開発と停滞を解説した。
今回は、その後の米国における道路交通情報技術開発の経過をたどってみる。
◆21世紀の交通
1970年代に始まった米国の車車間・路車間通信技術開発の芽は、宇宙開発競争などの影響で摘まれ、その後空白期間が続いた。しかし、日本やヨーロッパの動向に危機感を抱いた人々が、1987年に“Mobility 2000”と名付けた会合を開いてこの分野の振興を提唱した。その結果1990年に、運輸省の諮問機関である“IVHS America”という組織が発足した。
◆総合陸上交通効率化法
おりしも、ベルリンの壁崩壊を機に東西冷戦が終結し、軍備の負担が減少して財政の自由度が増し、国家戦略的な投資の対象として道路交通の知能化技術が浮上した。その結果、開発費を支援するとともに、1997 年までに完全自動運転道路システムの実現を規定した“総合陸上交通効率化法”が制定され、車車間・路車間通信技術の産・官・学にまたがる開発体制が整った。
◆ITS America
その後、この組織は“ITS(Intelligent Transportation Society)America”と名称を変え、交通流管理、旅行情報、車両制御など6分野で、数十のプロジェクトを各地で推進した。フロリダ州オーランド市では、高速道路管理センターと交通管理センターと連携する情報サービスセンターを設け、自動車と無線リンクを結び、車載ディスプレイにより、地図上の現在位置、目的地への経路誘導、ホテルやレストラン等の案内を行った(図1、2)。
◆自動運転から安全へ
シカゴでは、カメラや、車両との双方向通信によりカープローブと呼ばれる車両をセンサーとする交通管制システムが実験された。さらに、自動運転のプロジェクトもあり、その技術開発は、コラムですでに紹介した1997年の実証実験で完了し、活動の重点は、自動運転から交通安全へとシフトしていく。
◆通信技術開発
その結果、追突防止、車線変更と合流での衝突防止、自車の位置と、隣接する車線の車両および後方車両の相対速度をモニターして衝突の危険を警報するシステム、交差点での自車の位置/車速と、近くの車両の速度/位置をモニターして警報するシステム、などに加え、路車間通信、 車車間通信の研究、デジタル地図活用の研究、自動車メーカと道路管理者間で共用可能な通信システムの構築など、通信技術を用いる安全対策の開発が進められた。
今回は、その後の米国の道路交通情報技術開発が安全へと向かった経過を紹介した。
次回は、ヨーロッパの道路交通情報技術開発の経過を見ていこう。