交通安全コラム

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道路交通情報工学(6)―カーナビゲーション機器の出現―

前回は、我が国の道路交通情報技術開発活動の特徴、黎明期の活動内容をお伝えした。
今回は、我が国の路車間通信技術を発展させる、世界初のカーナビゲーション機器を紹介する。

◆世界初のカーナビゲーション
1981年、地図上で自車の位置を正確に把握できる車載のナビゲーション機器が、世界で初めて我が国で発売された(図1)。これが契機となり、機器の完成度が高って普及をうながし、それが路車間通信のディスプレーとして使われるようになり、世界に先駆ける我が国の道路交通情報システムの発展に貢献することになる。

図1 ホンダ・エレクトロ・ジャイロケーター
図1 ホンダ・エレクトロ・ジャイロケーター
出典:”DATA Dream Products & Technologies 1948-1998” Honda R&D

◆ナビゲーションの手法
GPSのなかった当時のカーナビゲーションの手法は、出発地点を地図上の原点とし、クルマの走行軌跡を正確に測定して、地図上にそれを描くことであった。そのためには、時々刻々の移動距離と進路方位角の変化を測定する必要がある。移動距離はタイヤの回転数を積算して求めることができた。

◆難題の方位角
方位の測定は、誰でも磁気コンパスを考えるが、自動車では、地磁気による方位は精度が不十分で、ナビゲーションには役に立たない。航空機は、コマが自転中は向きを変えない性質を利用したジャイロスコープに頼る慣性航法を行っていた。

◆ガスレートセンサー
 世界初のカーナビゲーション機器は、この慣性航法を採用して、精度の高い経路の計測を可能にした。ただし、航空機のジャイロスコープは大掛かりで極めて高価な装置なので、その代わりに、ヘリュームガスジェットの標的への命中位置が、方位の変化によってずれることを利用したコンパクトで安価な“ガスレートセンサー”が開発された(図2a)。

図2 ガスレートセンサー と 地図
図2 ガスレートセンサー と 地図
出典:”DATA Dream Products & Technologies 1948-1998” Honda R&D

◆地図の差し替え
当時、デジタル地図は存在しなかったので、透明なフィルムに地図を印刷して、軌跡を表示するディスプレーのブラウン管の表面に重ねて使用した。一枚の地図の範囲は限られるので、走行につれて人手による差し替えが必要になり、全国をカバーするのは、数十枚の地図が必要だった(図2b)。

◆ウオームアップ
ガスレートセンサーは温度の変化に敏感なため、一定温度に維持される必要があり、ウオームアップのため、直ぐにはスタートできなかった。走行開始時には、現在位置のセットも必要で、残念ながら、このカーナビゲーションは使い易いものとは言えなかった。
 
今回は、我が国の路車間通信の実用化を促進した世界初のカーナビゲーション装置を紹介した。
次回は、さらに、カーナビゲーション技術の進歩をたどっていく。

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