交通安全コラム
道路交通情報工学(10)―通信型カーナビの出現―
- Date:
- 2015/03/31
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、カーナビの普及と、日本が世界に誇る路車間通信システムの構築経過を報告した。
今回は、カーナビと携帯電話の組み合わせによるシステムのさらなる進化を紹介する。
◆通信型カーナビ
世界初のカーナビを実用化した自動車メーカーが、1990年代に、携帯電話を通じてドライブ情報をナビに提供する通信型カーナビを試行した。しかし、多くの賛同が得られず、ドライバーの求めているものは、質の高い経路誘導のための交通情報であることを認識させられた。
◆VICS情報の加工
VICSセンターから配信されていた交通情報は、民間企業が加工することは許されていなかった。また、それには、狭い道路、橋、トンネルなどの情報が抜けており、県をまたぐ情報が得られないなど、ルート探索上不十分な点もあった。そのため、VICS情報を民間企業が加工できるようにする提案がなされ、規制が緩和された。
◆世界初のシステム
そこで、このメーカーは、情報センターを設置して全国のVICS情報を集め、自社のクルマのユーザーの加入者に、出発地点から目的地まで、継続した情報を提供する世界初のシステムを構築した。しかし、提供できる情報は、VICSがカバーする主要道路を中心とした交通情報だけであった。
◆フローティングカーシステム
そこで、不足している情報を自分たちで集めることを考えた。その結果、走行データーをカーナビのメモリーに蓄積し、情報センターが、会員がアクセスした際にそのデーターを受け取って、それを会員で共有するシステムを開発し、2003年、この“フローティングカー交通情報システム”を自動車会社として世界で最初に実用化した。
◆対象道路8倍延長
このシステムでは、多数のクルマの一定時間間隔での「時刻」、「位置(経度、緯度)」、「車速」、「進行方位」などの詳細なデーターが得られるので、的確できめの細かい交通情報を提供することが可能となる(図1)。少ない設備投資で広範囲の情報取得を可能にしたこの手法で、カバーできる道路をVICSの8倍にまで延長したと言われる(図2)。
◆リアルタイム地図更新
このシステムは運用開始後1年で、総走行距離が1億キロに達し、さらに、時間がかかっていた、新しい道路の開通などの地図情報の更新も、このシステムによって、暫定にはなるが、迅速な対応が可能となった。
今回は、通信型ナビの発想から、フローティングカーシステムまでの展開を紹介した。
次回は、このフローティングカーシステムの素晴らしい働きの事例を紹介する。