交通安全コラム
道路交通情報工学(13)―走行支援道路システム(AHS)―
- Date:
- 2015/05/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、最新のテクノロジーを使い自動車の安全性を高めるASVプロジェクトを紹介した。
今回は、このASVの弱点を補って、安全性をさらに高めようとする道路交通情報技術開発を紹介する。
◆自律検知方式とその弱点
ASVプロジェクトでは、事故発生の可能性を予知してドライバーに警報するための情報の取得を外部に依存せず、すべて自動車が行う自律検知方式を採用して研究開発がスタートした。ASVが運輸省(当時)の所轄であったので、それは自然な成り行きであった。しかし、この自律検知方式には短所があった。
◆AHS
それは、自律方式は自車周辺の情報入手には優れているが、遠方や死角の情報が入手できず、天候の影響も受けやすいという弱点である。この弱点を補って、道路インフラから情報を提供し、クルマの安全性をさらに高めようとする研究開発が道路側から提案された。これが“走行支援道路システム(Advanced Cruise-Assist Highway System:AHS)”である。
◆ASVと連携
この基礎的な技術開発は1989年頃から行われていたが、1996年には実現の可能性ありと判断され、建設省(当時)の提唱でAHS研究組合が設立された。2000年にはその成果がテストコースで公開され、2002年には全国7か所の道路で実走実験が行われている。これを受けて、ASVプロジェクトでも1996年に始まる第二期からは、道路インフラとの連携も進められるようになった。
◆認知・判断・操作で支援
AHSは、ほとんどの事故の原因となるドライバーの認知・判断・操作の誤りを低減することを主たる目的としている。そのため、認知の誤りに対しては適切な情報提供で、判断の誤りに対してはタイミングの良い警報で、操作の誤りに対しては操作支援で、という三段階の支援が企画された(図1)。
AHSが行うサービスは、①見通しが悪いカーブ等において、停止車両や落下物等、障害物を道路側が検知して車両に伝え、ドライバーに情報提供、警報、操作支援を行う“前方障害物衝突防止支援”、②カーブまでの距離や形状を車両に伝え、情報提供、警報、操作支援を行う“カーブ進入危険防止支援”③路面に設置されたレーンマーカーが車線内の位置情報を車両に伝え、車両が走行車線を逸脱しそうになったときに、警報、操作支援を行う“車線逸脱防止支援”など、効果の大きいものから7つが選定された(図2)。
今回は、自動車の安全性をさらに高めようとする道路交通情報技術開発、AHSを紹介した。
次回は、お馴染みのETC(自動料金支払いシステム)の現状、必要機能、効果を解説する。