交通安全コラム
道路交通情報工学(19)―ITSと将来の展開―
- Date:
- 2015/08/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、合衆国北東部に続いて、それ以外の主要な地域のETCシステムの概要を紹介した。今回は、これまで紹介してきた各種情報通信技術システムを総括し、その将来を展望する。
◆交通社会改善のシステム
これまで、カーナビを情報端末としてリアルタイムの道路交通状況を提供するVICS、ドライバーの安全運転を支援するシステムの開発・実用化・普及を促進するASV、自動車を止めずに有料道路の料金支払いなどを処理するETC、など最先端の情報通信技術により、安全・環境・利便性の面から交通社会を改善する幾つかのシステムの研究開発と実用化の経過を紹介してきた。
◆ITS Japan
これらのシステムは、当初は、それぞれが独立に企画・推進されていたが、重複の無駄を省き、効果的な発展を目指して、それらを総合的に検討・展開する組織がつくられた。同様な組織が、米国ではIntelligent Transportation Society of America(ITS America)と命名されたので、我が国でもそれに倣ってITS Japanと名付けられた。
◆3つの将来ビジョン
ITS Japanは、産業界、学識経験者、市民・ユーザー、経団連からなる民間団体で、3つの将来ビジョン(交通事故死者ゼロ空間、渋滞ゼロ空間、快適移動空間)の実現に向け、内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、経済産業省、国土交通省と情報共有、意見交換を行い、住みやすい社会作りと産業の発展へ貢献する政策を提言し、事業を行う組織である。
◆ITS総合戦略2015
ITS Japanは、2030年の「交通社会のありたい姿」を想定した「ITSビジョン2030」を実現するために、まず2015年までの取り組むべきテーマを「ITS総合戦略2015」として策定している(図)。それに従い、①移動通信ネットワークの高速化と日常生活への普及がもたらす潜在力を活かした交通社会システムの進化、②自動車の動力源の転換とエネルギー需給構造の変化を支え、モビリティーの持続的向上と省エネルギーを両立する交通システムの実現、③経済活動の一層のグローバル化と担い手となる国・地域の構図の変化を先取りしたITS分野の国際連携のリード、④誰もが多様なライフスタイルで活き活きと暮らす豊かな社会を支える自立的・効率的モビリティーの実現、を目指した展開が行われている。
◆東京オリンピックへ向けて
ITS Japanには、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた検討タスクフォースが設けられている。どのような提案がなされるか興味深い。
今回は、道路交通情報工学の締めくくりとして、情報通信技術システムを統括するITS Japanと、その将来ビジョンを紹介した。
次回からは、内燃機関が利用される以前の自動車の技術史をひもといていく。