交通安全コラム

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自動車誕生前史(3)―世界初の人工動力車(2)―

前回は、ジェームズ・ワットが蒸気機関を改良する直前に、フランスに出現した先進的なキュニョーの蒸気自動車を紹介した。
今回は、このクルマの技術的な内容を詳しく解説する。

◆前輪駆動三輪車
1769年に砲兵工廠で完成した1号車は、事故で失われて残っていないので詳細は明らかではない。しかし、そのあとに作られた2号車は現存している。木製の梯子型フレームを持った前1輪、後2輪の三輪車で、後部に大きな積載スペースを設け、ボイラーとシリンダーなどの動力部を、前輪の前に大きく張り出して配置したレイアウトによる大きな前輪駆動車である(図1)。

キュニヨーの蒸気自動車の総合レイアウト

◆大気圧でなく蒸気圧駆動
ボイラーからの蒸気圧をシリンダーに導いて、ピストンの下降運動をリンクで前輪に伝える。蒸気圧を直接動力に利用するこの発想は、当時、英国では依然として大気圧機関が使われていたことを考えると、極めて先進的である。さらに驚くべきことには、ジェームズ・ワットが苦労した、往復運動を回転運動へ変換する問題を、2本のシリンダーと爪歯車装置を使うことで解決していることである。

◆左右シリンダーの連動
左右のピストンは、人が自転車に乗るときの左右の足と同様な動きをする。蒸気圧で右のピストンが下降すると、その動きが前輪を回転させてクルマを前に押し出す。右のピストンが下がりきると、蒸気配分器の弁が、リンク機構により自動的に切換えられて、今度は左のピストンを下降させて、前輪の回転を継続させる。同時に、下がりきった右のピストンが、別のリンクで上に押し戻されて、次の下降に備える、という作動原理である(図2)。

キュニヨーの蒸気自動車の前輪駆動機構

◆適切な総合レイアウト  
戦場では、平坦な路面だけではなく、凹凸が激しく、登り勾配がある場合でも、走行が可能でなければならない。そのためには、駆動輪は路面にしっかり押し付けられていなければならない。重い装置を前輪の前に張り出したこのレイアウトは、前輪の負担重量を増加させるので、しっかり路面を捉えるにためには適切なレイアウトである。
車軸がフレームに固定されているので、もし四輪車であれば、路面の凹凸次第では1輪が宙に浮く可能性があり、駆動輪が浮けば空転して立ち往生する。それを避けるためには、前1輪の三輪車という選択も適切な判断であると考えられる。

今回は、世界初の人工動力移動機械であるキュニョーの蒸気自動車の技術内容を解説した。
次回は、引き続き、このクルマの操舵機構と走行性能などについて解説する。

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