交通安全コラム

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自動車誕生前史(11)―赤旗法時代の英米での蒸気車の動向―

前回は、英国での蒸気自動車の進化と、その衰退をもたらす赤旗法を紹介した。
今回は、赤旗法時代の蒸気車について、英米での開発の動向を紹介する。

◆鉄道網の発達
英国では、赤旗法制定の影響で、蒸気動力の技術が乗合自動車から定置作業を主目的としたスチーム・トラクション(蒸気牽引車)の開発に向かった。鉄道網の発達により、経費のかかる道路整備が不要な鉄道による大量輸送の魅力が高まったこともあり、蒸気牽引車は、製材や耕作、脱穀、収穫物の運搬などに加えて、鉄道で運べない大物の輸送、建設資材、加工原料の駅や港からの配送で活躍することになる。

◆蒸気牽引車の開発
英国の蒸気牽引車の初期の開発者であるトーマス・リケットは、1858年から数台の牽引車を開発した。外観はこれまでの乗合自動車よりも蒸気機関車に似たもので、一つの小さな前輪で転舵し、二つの大きな後輪をチエンで駆動する三輪車だった。1.5トンの重量でありながら、時速19キロの最高速を達成した(図1)。

英国のリケットの初期のスチーム・トラクション

◆歯車駆動からロッド駆動へ
彼は2年後には、同形式で、平歯車で駆動するさらに重いクルマを開発した。彼の最後のモデルは、車輪の外に付けられたクランクをシリンダーからロッドで直接駆動する蒸気機関車そっくりなものとなった。1871年には、R.W.トムソンが車輪に中実のゴムタイヤを付けた牽引車を開発している。

◆蒸気牽引車の活躍
蒸気牽引車は、発電機を駆動して給電することにも使われた他、移動遊園地のメリーゴーラウンドの動力にも使われ、ボイラーは蒸気オルガンの演奏にも活躍した。さらに、重過ぎて耕地の中に乗り入れることが困難な場合に、ケーブルを使って鋤車を動かす興味深い使い方が記録されている。
蒸気牽引車は、より強力で効率の良いディーゼルエンジン付きのトラクターがとって代るまで活躍を続け、英国では1933年まで製造されていた。

◆米国の蒸気牽引車
米国で最初に現れた蒸気牽引車は、ニューハンプシャー州の会社が、消防用として1877年までに26台量産した8トンを超える重量級だった(図2)。これは米国としては初めての人工移動機械の量産であるばかりか、近代的な丸ハンドルを備えた初めてのクルマであると主張されている。走行性能の実力は時速19キロ程度と考えられているが、その重さを考慮すると立派である。

米国の重量級の消防用スチーム・トラクション

今回は、赤旗法時代に多目的動力車へと向かう、英米での蒸気車の開発動向を紹介した。
次回は、米国での蒸気牽引車のレースとフランスでの蒸気車の発展を紹介する。

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