交通安全コラム
地上最高速の争い(7)―ライバル車両の変遷―
- Date:
- 2017/05/15
- Author:
- 佐野彰一(元東京電機大学教授)
前回は、時速100キロの壁を競ったジャントーと彼の電気自動車の技術内容を紹介した。
今回も、その続きと、ライバル車両の技術的変遷を解説する。
◆でっち上げの空気抵抗低減策
ジャントー車で目につくのは、馬車のような大きな車輪と後輪を駆動するチエンである(再掲図1)。後半のクルマは、前部と後部に楔のような整形と側面にもカバーが付けられている。これは、ライバルのクルマ“ジャメ コンタン”号の魚雷のような空気抵抗の少ない外観を見て、急いで真似したでっち上げであるとの説もあるが、この説は、ジャメ コンタン号の登場が最後なので、無理がある。車体自体は同一であると推測される。
◆ソリッドタイヤとステアリングホイール
モーター出力は36馬力と称され、大径の車輪には、空気入りではない中実のゴムタイヤが付いている。このタイヤでは、重い電池を満載した1400kgと言われるクルマを、高速で安定して走らせることは大変だったと想像される。このクルマには、丸ハンドルが備えられており、新旧技術の混在が興味深い。ブレーキらしきものが見当たらないことから、制動にはモーターによる電気ブレーキが使われたものと考えられている。
◆空気入りタイヤ?
一方、ライバルのジェナツィーの前半のクルマの内容も不明である(図2)。左のクルマは、チエン駆動で、伯爵のジャントー車と似た背の高い外観であるが、タイヤがやや太く側面が膨らんでいるように見えるので、空気入りタイヤが使われている可能性がある。一方、右に示す最後の挑戦のために製作したジャメ コンタン号は革新的な外観で、内容もある程度わかっている。
◆パルタニウム
小径車輪に、転がり抵抗の少ない肉の薄いミシェランタイヤを使っており、車体は、パリの工場で、フランス人の開発したアルミ合金の一種である“パルタニウム”の板で作られている。モーターは大きなものが左右に2個使われているが、出力のデーターは見当たらない。回転はチエンではなく後車軸に歯車で伝達される。
空気抵抗の低減を意識して、車体を極力細くし、全体が、当時としては異例の魚雷型にデザインされている。これらの先進的な発想に対して、馬車のような楕円バネと舵棒は、それとは対照的で、このクルマにも新旧技術が混在している。車重は1000kgとも1450kgともいわれている。
今回は、伯爵が使用したジャントー車とジェナツィーのクルマの技術的な変遷を紹介した。
次回は、ジャメ コンタン号からジェナツィーの勝因を考えてみる。