助成研究者インタビュー・自己紹介
「無信号交差点での出会い頭事故の削減」 に向けた対策案と効果の推定
- Posted:
- 2019/02/14
- Author:
- 三村泰広(公益財団法人 豊田都市交通研究所 主任研究員)
タカタ財団・2018年度研究助成の対象テーマ
『空間認知特性に着眼した高齢運転者が加害者となる出会い頭事故対策に関する応用的研究』
この研究の概容について、三村泰広氏に語っていただきました。
―これまで主にどのような研究を行ってこられましたか。そこから交通問題として『空間認知特性に着眼した高齢運転者が加害者となる出会い頭事故対策に関する応用的研究』を行うに至った経緯についてお教えください。
以前から研究のテーマとして「交通安全」、その中でも特に交通弱者いわゆる高齢者や障害者の交通安全のあり方を継続して研究しており、この数年間は高齢運転者を主体に研究してきました。
個人差はありますが、高齢者は身体機能とともに、認知機能、中でも特にワーキングメモリと呼ばれる一時記憶の処理能力が衰えやすいとされています。
クルマを運転する場面を考えますと、ハンドルやブレーキ操作はもちろん、周囲の安全確認動作などにおいて俊敏な動きが求められます。更に信号、歩行者、クルマといった、他の交通の状況を絶えず意識しながら、自身の動きを判断・操作しなければならないこともあって、ワーキングメモリがフル活用される場面でもあると思います。
クルマの運転は、求められる能力と自身の能力にギャップが生じやすいからこそ、高齢者にとって苦手なものとなるのではないか、このギャップを小さくするためにどのようなことが必要なのか、問題意識をそういったところに設定しました。
当初、我々が注目したのが、高齢運転者の「意識」と「運転挙動」です。特に安全な走行が要求されるような道路をクルマで走るときに、意識や運転挙動に課題が生じやすいのか、というところについて研究を進めました。
例えば生活道路といった生活空間に近い幅員の狭い道路は、幹線道路とは異なり死角が多く、日本の場合は特に歩行者・自転車などの他の交通と空間を共有する場合が多いなど、よりクルマ側の安全な走行が求められる空間です。
このような空間において、高齢運転者がどのような意識を持ちやすく、どのような運転をするのかを研究してきました。
中でも、事故時の被害程度に大きな影響を与える運転するクルマの速度に注目し、クルマ側から速度超過しないための運転支援(ISA: Intelligent Speed Adaptation)の効果について研究を蓄積してきており、特に高齢者はこのような支援によって運転時の心的負荷が軽減されることがわかってきています。また近年は、高齢運転者の衝突被害軽減ブレーキによる事故削減効果や、普及に向けた受容性についての研究も行っています。
このような流れで、これまでは高齢運転者の意識や運転挙動に注目し、「クルマ側からの対策」の重要性について検討を続けてきました。他方で、高齢運転者が苦手としやすい空間における対策の重要性、すなわち「環境側からの対策」に注目しているのが今回採択をいただいた研究です。
高齢運転者が第一当事者(過失が最も大きい交通事故当事者)となる交通事故が多く発生している箇所、事故の形態に注目すると、それは無信号交差点の出会い頭衝突事故です。私共が実施したものに限らず、高齢運転者の意識や運転挙動に関する研究は多く、その特性を反映した様々な対策提案が行われています。しかしながら、高齢運転者の交通事故削減に貢献する「環境側からの対策」に言及しているものは多くありません。
今後、高齢運転者の増大が見込まれる我が国において、高齢運転者の安全・安心を高める空間のあり方を、まずはその走行が苦手であることが予想される無信号交差点に注目して提言していきたいとの思いから、この研究テーマに行き着いたというところです。
― 今回、空間認知特性という聞きなれないWordだったので、どういうものかと。。。具体的に言うとどういう対策が必要なのかというのが結論になるのでしょうか。
結論としては、どういう特徴のある無信号交差点が高齢運転者にとって苦手、すなわち交通事故を起こしやすく、さらにどのような環境面からの対策を実施するとその軽減や解消につながるのかを明示することができるのではないかと考えています。
高齢でない運転者に比べ、高齢運転者がより多く事故を起こしているような無信号交差点は、何らかの空間的特徴があるはずです。
運転者は一般にクルマを運転する際、「認知」、「判断」、「操作」を繰り返しているといわれていますが、このプロセスの最初にある「認知」が安全な運転を行う上で最も重要であると考えています。
あくまでも仮説ですが、高齢運転者が多く交通事故を起こしているような無信号交差点は、この「認知」のプロセスが高齢でない運転者と異なるのではないかと考えています。私共はこの無信号交差点のような「空間」を「認知」するプロセスを「空間認知特性」と呼んでいます。
本研究では、まず高齢者が第一当事者となる出会い頭衝突事故の多い無信号交差点の道路構造や沿道土地利用などの多様な条件を整理し、多くの当該条件に合致する代表的無信号交差点を抽出します。その代表無信号交差点を対象にVR(ヴァーチャルリアリティ)空間を構築し、高齢運転者がどのようにその空間を「認知」しているかについて視線挙動などの分析を通じて明らかにします。同様の分析を高齢でない運転者に対しても実施し、両者にどのような違いがあるかをみることで、「空間認知特性」という観点からみた環境面からの対策を提案したいと考えています。
―本研究についての進捗状況をお教え下さい。
高齢運転者が第一当事者となりやすい無信号交差点での出会い頭事故が多く発生する箇所を抽出するため、愛知県警察本部の協力を得て愛知県内で過去5年間の交通事故データを分析しました。
愛知県内の無信号交差点毎に出会い頭衝突事故データを集約し、一定数以上の当該交通事故が発生しており、かつ高齢運転者が第一当事者となる割合が高い箇所の空間的特徴を整理しています。
今後は、空間的特徴から高齢運転者が第一当事者となりやすい出会い頭衝突事故が多く発生する交差点を推定するモデルの構築に取り掛かる予定です。
―本研究の成果は社会でどのように役立てられ活用されていくことが期待されますか。
交通事故総合分析センターの報告では、交通事故件数は平成16年をピークに年々減少しているものの、高齢運転者による交通事故はあまり変化しておらず、交通事故全体に占めるその割合が増加し続けています。
団塊の世代を筆頭に高齢運転者が増大している状況から高齢運転者が加害者となる交通事故の発生を如何に減少させるかが大きな課題となっています。
本研究を推進することにより、特に高齢運転者にとっての課題でありつつもこれまで有効な環境側からの対策の方向性が明示されていない「無信号交差点での出会い頭事故の削減」に向けた対策の方向性を明示できるものと考えております。
2018年度タカタ財団助成研究
『空間認知特性に着眼した高齢運転者が加害者となる出会い頭事故対策に関する応用的研究』概要
研究代表者
公益財団法人 豊田都市交通研究所 主任研究員
三村泰広
本研究では、超高齢社会においてあり得べき無信号交差点空間について提案するため、高齢運転者が加害者となる出会い頭事故が発生する無信号交差点の空間特性を定量的に明らかにするとともに、交差点空間特性からみた高齢運転者が加害者となる出会い頭事故の予測モデルを構築する。
また、出会い頭事故への関係性が予想される高齢運転者の無信号交差点における空間認知特性について実験室実験を通じて明らかにし、高齢運転者の空間認知特性からみた無信号交差点における対策案の検討とその効果の推定を試みる。
【2018年度】
(1)高齢運転者が加害者となる無信号交差点での出会い頭事故発生箇所の抽出
(2)高齢運転者が加害者となる無信号交差点の空間特性の定量化
(3)交差点空間特性からみた高齢運転者が加害者となる出会い頭事故予測モデルの構築
【2019年度】
(4)交差点空間における高齢運転者の空間認知特性の把握
(5)高齢運転者の空間認知特性からみた無信号交差点における対策案の検討と効果推定