研究助成プログラム

助成研究者インタビュー

発達障害傾向のあるドライバーが抱えている問題を明らかにし、それぞれの行動特性に応じた運転教育を提供します。

タカタ財団・2019年度研究助成の対象テーマ
『発達障害傾向のあるドライバーの運転特性の解明』
この研究の概容について、水野智美氏に語っていただきました。

水野

交通問題として『発達障害傾向のあるドライバーの運転特性の解明』を行うに至った経緯についてご説明ください。

 自閉症スペクトラムやADHD(注意欠如多動症)などの発達障害傾向のある人は、決して珍しい存在ではありません。様々な調査で、成人の30人~40人に1人以上の割合でみられると言われています。しかし、実際には顕在化していないだけで、それよりもさらに高い割合で存在していると考えられています。

 発達障害傾向のある人には、こだわり、反応の遅さ、感覚異常、同時並行処理の困難さ(2つのことを同時にできない傾向)、衝動性、多動性、不注意、視野狭窄、ワーキングメモリーの小ささ(すぐに忘れてしまう)等の特性がみられます。
 日常生活の中でも、注意視野(物理的な視野ではなく、注意を向けられる視野)が狭いために、すぐ近くにある物であっても視界に入らずに探せなかったり、壁や人、物などにぶつかったりすることがあります。また、2つのことを同時に処理することが苦手であるために、人の話を聞きながらメモを取ることができなかったり、一つのことに注意を払っていると、その他のことに全く注意を向けられなかったりすることがあります。さらに、うっかりミスを頻繁におこす、思いついた時に周囲のことを考えずにとっさに行動してしまう、などのこともあります。

 このような特性は、ドライバーとして自動車を運転する際には、不利に働いてしまいます。「ADHD傾向のある人は方向指示器の出し忘れ、或いは戻し忘れが多く、また急な車線変更を行う傾向がある」と発達障害の専門医も述べています。
 海外の調査では、発達障害傾向のあるドライバーの事故率が高いという研究結果がいくつか報告されています(Chang et al., 2014; Cox, 2013 など)。

 日本において、自動車を運転している発達障害傾向のあるドライバーは数多く存在していると考えられます。発達障害傾向のあるドライバーの事故率やヒヤリハット体験は一般ドライバーよりも高いことは容易に想像できますが、何故そのような事態が生じるのか、どのような場面においてリスクが上昇するのかについての詳細な検討は未だなされていません。

 発達障害傾向のあるドライバーが運転場面でどのような問題が生じるのか、それはドライバーのどのような特性に起因するのかなどを明らかにすることによって、発達障害傾向のあるドライバーの事故を防ぐためにどのような運転教育を行えばよいのかを見出していくことができると考えています。

 本研究では、こだわりと感覚異常を強く持っている自閉症スペクトラムの傾向のあるドライバー、衝動性・多動性の傾向の強いADHD衝動型傾向のあるドライバー、忘れやすく注意散漫の傾向が強いADHD不注意型傾向のあるドライバーのそれぞれがどのような運転をしているのかについて、ヒアリング調査をして、運転行動についてのチェックリストを作成します。その上で、作成したチェックリストをもとに実路において運転行動の観察調査およびヒアリング調査を行います。また、定型発達のドライバーに対しても、チェックリストをもとに実路における運転行動の観察調査およびヒアリング調査を行い、発達障害傾向のあるドライバーと比較していきます。

本研究についての進捗状況をお教え下さい。

(1)発達障害傾向のあるドライバーに対するチェックリスト作成のためのヒアリング調査

ADHD衝動型、ADHD不注意型、自閉症スペクトラムの傾向があるドライバー、このような特性がある人の家族に対して、過去のヒヤリハット体験とその原因や背景、状況、自覚している運転特性、運転特性に関して、同乗者から指摘された経験の有無とその内容、運転に関して気をつけていること、日常生活の中で、自覚している自身の行動特性(こだわり、感覚異常、同時並行処理の困難さ、衝動性、多動性、不注意、不安傾向の強さなど)に関してヒアリング調査を行いました。

(2)チェックリストの作成

上記のヒアリング調査の結果、以下の11カテゴリーの問題が抽出されました。

【周囲の動き、ノイズに惑わされる】
・目の前ではなく、その先の信号を誤って見て行動してしまう(1つ先の信号が青で、自分の手前の信号が赤であった場合に、信号無視をしてしまう)
・矢印信号のため、隣のレーンと自分のレーンで信号が異なる場合に、自分のレーンは赤なのに隣のレーンの車の動きにつられて進んでしまう など
【こだわり】
・信号を忠実に守るため、右折時に黄色や赤になった時に渡ってよいのかがわからない
・制限速度を忠実に守るため、スピードが遅い など
【視野が狭い、状況判断ができない】
・車道の脇を通る歩行者等に気づくのが遅い
・一時停止の標識を見落として、止まれない など
【不注意】
・周囲の状況を確認せずに発進してしまう
・発車する際にサイドブレーキの解除を忘れる など
【2つ以上の行動をすることが苦手】
・カーナビの音声や同乗者の指示に慌ててしまう
・赤信号で停車中にブレーキの踏み方があまくなり、少しずつ動く など
【衝動的な行動】
・車線変更をしたいと思いついた瞬間に周囲を確認せずに行動する
・前に車がいると、無理に抜かして、その前に進もうとする など
【見通しの甘さ】
・ブレーキを踏むタイミングが遅く、急ブレーキになる
・交通量の多い場所で、前方の見通しを持てないために進んでしまった結果、停車してはいけない場所に停車してしまう(交差点や横断歩道に停車せざるを得ないなど) など
【左右、後方の視点の変化が弱い】
・バックをする際にハンドルをどう回せばよいのかがわからない
・左右を瞬時に判別できない など
【車体感覚がイメージできない】
・車線の中央を走行しない(左や右に寄りすぎている)
・幅が狭く、中央線がない道路で、他の車とすれ違えない など
【対向車、後方車のスピード、距離感がわからない】
・合流のタイミングがわからない
・右折時に対向車のスピードや距離がわからず、なかなか曲がれない など
【その他】
・カーナビが示す「〇m先」がどこを指しているのかがわからない
・あせると、アクセルとブレーキの位置がわからなくなる など

(3)発達障害傾向のあるドライバー、定型発達のドライバーの運転行動の観察調査およびヒアリング調査

 作成したチェックリストをもとに、発達障害傾向のあるドライバーに実路を運転してもらい、運転行動を観察するとともに、車にドライブレコーダーを装着し、その内容を分析しています。

 これまでの結果、一時停止等の標識を見落とす、自転車や歩行者の脇を通行する際に一切、徐行をしないなどの運転行動を示すドライバーが複数名いることを確認しています。

本研究で実施した成果等について、これまで同様の研究は存在しましたか。 

 これまでに、高齢者の運転特性を解明する研究はなされてきましたが、発達障害傾向のあるドライバーに関する研究は見当たりません。海外において、発達障害傾向のあるドライバーが交通事故を起こす割合が高いことを示すデータが存在する程度です。

本研究の成果は、社会でどのように役立てられ、活用されていくことが期待されますか。或いは、今後どのような形で社会に寄与していくべきとお考えでしょうか?イメージをお教えください。

 本研究で、発達障害傾向のあるドライバーがどのような場面でどんな問題を抱えているのかを明らかにすることができれば、今後、それぞれの行動特性に応じて、具体的な運転教育を提供することができると考えます。それによって、発達障害傾向のあるドライバーの交通事故を減少させるだけでなく、そのような特性のドライバーが自動車を安全に利用できるようになることで、活動範囲が広がり、ひいてはそのような特性の人たちのQOLの向上にも寄与することができると期待しています。

運転行動

2019年度タカタ財団助成研究 

『発達障害傾向のあるドライバーの運転特性の解明』概要

研究代表者
筑波大学医学医療系 准教授
水野智美

 自閉症スペクトラム、ADHD(注意欠如多動症)などの発達障害傾向のある人の行動特徴として、こだわり、反応の遅さ、感覚異常、同時並行処理の困難さ(2つのことを同時にできない傾向)、衝動性、多動性、不注意、視野狭窄、ワーキングメモリーの小ささ(すぐに忘れてしまう)等が挙げられている。 これらの特徴は、ドライバーとして車を安全に運転する際に不利に働く要因である。

 発達障害の専門医である鈴木直光氏は「ADHD傾向のある人は方向指示器の出し忘れ、戻し忘れが多く、また急な車線変更を行う傾向がある」と述べている。実際に発達障害傾向のあるドライバーの事故率が高いという研究結果がいくつか報告されている。

 発達障害傾向のあるドライバーの事故率が一般ドライバーよりも高いことは確かであるが、なぜそうであるのか、どのような場面においてリスクが上昇するのかについての詳細な検討は未だなされていない。

 すなわち、これらの人の有する特徴が、運転場面でどのように発現しているのか、それらに起因する事故を防ぐためにはどのような運転教育を行えばよいのかに関して全く解明されていないのである。

 そこで本研究では、こだわりと感覚異常を強く持っている自閉症スペクトラムの中のアスペルガー障害のあるドライバー、衝動性・多動性の傾向の強いADHD衝動型のドライバー、忘れやすく、注意散漫の傾向が強いADHD不注意型のドライバーを対象にして、実際の運転場面を詳細に観察し、運転行動特性を明らかにする。

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