研究助成プログラム

助成研究者インタビュー・自己紹介

研究テーマ「半側空間無視を呈した脳卒中片麻痺者の自動車運転再開支援」

自己紹介
2007年3月に北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻を卒業後、八千代リハビリテーション病院へ理学療法士として就職し、2010年4月には静岡リハビリテーション病院に入職、2017年10月に同院理学療法科主任となり、現在に至っております。

スライド1

1. 半側空間無視に関心を持った経緯
 半側空間無視は、脳卒中後に病巣の反対側にある物体・事象を無視してしまう高次脳機能障害の症状で、右半球損傷に好発します。左半側空間無視は、脳卒中発症後に経過とともに改善することが多いとされているものの、その重症度や生活行動範囲などによってはその症状が顕在化してしまいます。例えば、日常生活では食事の際に左側にあるお皿に気づかない、左側にいる人に気づかない、車椅子で前に進んでいると左側の壁にぶつかってしまう、歩いていると左側にある部屋を見落とすなどの問題が生じます。リハビリテーションでは、患者さんが日常生活動作を自立していけるように支援していきますが、たとえ身体機能が改善していても無視症状が残存していると転倒する危険性があり、医療従事者側や患者さんをサポートする方々からみて、その不安感は拭えません。半側空間無視の評価では、紙面上に記載されている多数の線をチェックする、花や星を模写する、時計や人を描くなどの課題を実施してもらい、それらの結果に点数をつけた総点から無視症状の改善を判断することが一般的です。ただし、このような検査結果から無視症状が改善していると判定されたとしても、日常生活上において無視症状を認めることがあります。そのため、リハビリテーションを進めるにあたって、無視症状が日常生活に支障を与えない程度に改善しているかどうか何とか判断できないかと考えていました。

2. 半側空間無視症状を認めた脳卒中者の自動車運転再開可否
 半側空間無視の症状が軽微なりにも残存している場合、日常生活動作に影響を及ぼす可能性があることを考慮すると、自動車運転では大きなリスクが生じてしまうことは容易に想像ができるかと思われます。実際、紙面上検査を行って無視症状が改善していると判定された方が自動車運転を再開し、事故を引き起こしてしまったという報告があります。脳卒中者の自動車運転評価では、神経心理学的検査や運転シミュレータ、実車評価などから総合的に運転の可否が判定されます。そのような中で、半側空間無視が自動車運転に影響を与えない程度に改善しているかどうかについて、その病態をふまえて医学的に判断することは実車評価に移行するにあたって重要であると考えます。
近年、半側空間無視の病態メカニズムは,能動的(内発的)注意と受動的(外発的)注意といった注意ネットワークの観点から捉えられることが主流になりつつあります。紙面上検査では自ら対象物を探索するような能動的注意の評価には有用である一方で,外発的に駆動する受動的注意に関する評価には一定の限界があります。自動車運転に必要な注意機能には,覚醒や持続性注意に加え,能動的注意と受動的注意の双方が必要であることが知られていることから,能動的・受動的注意ネットワーク双方の観点から評価を行い,自動車運転の可否判定を総合的に行う必要があると考えられます。

3. 今回の助成研究について
 共同研究者である河島則天氏(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)が能動的/受動的注意を考慮した新たな半側空間無視の評価・介入ツールをすでに開発しています。我々はこれまでの研究で左半側空間無視を呈した症例の能動的/受動的注意の特徴、視線推移、注視点などについて一定の見解を得ております。今回の研究では、今まで行ってきた軽微な無視症状を検出できるPCベースの評価方法を実施し、その結果と運転場面の映像視認中の頭部・視線計測による新たな評価用自動車運転シミュレーションシステムとの関連性を調査し、その評価システムの妥当性を検証することで、より安全性の高い運転再開支援を行うことを目指しています。本研究から得られる結果が、自動車運転事故の減少に少しでも貢献できることを期待しており、本研究を助成してくださる公益財団法人タカタ財団の関係各位に深く御礼申し上げます。

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